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vol.9 エリック・ジャクソンさま

A&People IRパートナー

読み手が“感じる”言葉で伝えるのが「翻訳」

長年に渡り英文ドキュメントを手がけるプロライターとして、また経営戦略コンサルタントとして、海外投資家・ステークホルダー向けのIRツールの役割について、主に欧米の視点からさまざまなお話を伺いました。

「People」第9回目は、A&Peopleで、アニュアルレポートなどの翻訳・制作に参画していただいている、エリック・ジャクソン氏のご紹介です。

長年に渡り英文ドキュメントを手がけるプロライターとして、また経営戦略コンサルタントとして、海外投資家・ステークホルダー向けのIRツールの役割について、主に欧米の視点からさまざまなお話を伺いました。

[取材者:橘川 真澄] 

読み手が“感じる”言葉で伝えるのが「翻訳」

ジャクソン氏は財務監査コンサルタント/シニアアカウンタント、ITベンチャー企業のファウンダーの経験を活かし、現在はビジネス戦略コンサルタントの会社を経営されています。大学・大学院では会計学と日本語を学ばれ、デロイト トウシュ トーマツ Los Angelesでは監査内容の和訳や創業者・富田岩芳(とみた・いわお)氏のスピーチ原稿の英語への翻訳なども手がけていました。日本語を流暢に操るアメリカ人社員の中で、ジャクソン氏はずば抜けて“うまい英語を書く”、“表現が面白い”ということで定評があり、富田氏が彼を指名していたそうです。
A&Peopleでも、トヨタ自動車(代理店経由)のエグゼクティブの方々の海外でのスピーチ原稿などを担当していただいたところ、良い評価をいただき、その後多くのトヨタ自動車様の翻訳業務をお手伝いさせていただく事になりました。
公私ともに日本と関係が深いジャクソン氏に、ビジネス文書における日本語と英語の違いと、プロフェッショナルな英文ドキュメントとはどういうものが理想なのか、伺いました。

日本語は“柔らかい”言語ですね。文章が長くて表現が曖昧で、直接的な物の言い方をしません。相手を気遣い、相手に気づいてもらうよう曖昧に表現する優しい思いやりのある言語だと思います。 しかし英語はその反対で、大学のビジネス文書の講義では、簡潔でストレートに表現する訓練が徹底して行われます。そのため、ネイティブでも、そうした訓練を受けている人とそうでない人の文章は読めばすぐわかります。
このように相反する言語ですから、言葉を置き換える翻訳では自然な英語にはなりません。曖昧な表現をそのまま曖昧に英語に訳したら、それこそ何が言いたいのかわからない文になります。より良い英文にするには、日本語の裏にある意味を理解した上で英語をストレートに表現することが肝心です。

もちろん、文章の内容と事実は変えません。ただ、どう翻訳をするかは読み手によって変わってきます。自分が理解したことではなく、読み手が“感じる”(=納得できる)言葉でなければ、訴求させたいことをアピールできません。そうした翻訳をするには、英語がうまく書けるだけではなく、文章の内容や業界の事情に精通している必要があります。

それぞれのドキュメントには必ず目的があります。誰がだれに向かって書いているのか?何を伝えたいのか?何を訴求していきたいのか?それを踏まえて翻訳をしないと、ただ日本語の文章を英語に置き換えるだけでは、ドキュメントの持つ目的を達し得ません。よりわかりやすく、その文章を読んで容易に内容をイメージできる文章であることがベストです。

こんな風に口で言うのは簡単ですが、なかなかそれができている翻訳は少ないと思います。アニュアルレポートの文章レベルもその一例で、アナリストや機関投資家は何十、何百ものレポートに目を通すため、簡潔でわかりやすいプロフェッショナルライティングされた英文であることは基本条件です。

欧米では日本のアニュアルレポートを「前進するのにバックミラーばかり見ている」という比喩も

A&Peopleでは、日本企業が作成している、英文のアニュアルレポートの提案や制作・評価をジャクソン氏とともに行っています。
仕事がら多くのレポートを目にする彼に、日本のレポートの特徴について伺いました。

まず、表紙はレポートを読んでもらうための広告ですから、内容がわかり、かつ興味を引くものでなければなりません。日本の表紙は、面白味に欠けるというか、手に取り読みたいという動機付けになっていないと思います。 投資家たちの机の上に積み上げられた数十、数百冊のレポートの中から手にとってもらえるようなデザインやテーマの工夫が必要です。またタイトルの英文コピーもおろそかに考えてはダメですね。

アニュアルレポートの役割とは

アメリカでは、IRツールの役割は「企業価値を高める」「投資対象としての査定」「信頼できるパートナーの証」「従業員の安心・信頼」というような、最も重要なブランディング資料として位置づけられています。

日本のレポートの特徴は“過去”の記述が多くを占めている感があります。そのため、アメリカでは『車を運転するのに、バックミラーばかり見ているようだ』(trying to drive by looking at the rear view mirror)という比喩もあるほどです。
投資家をはじめとするステークホルダーにとって興味があるのは将来性です。特に投資家は今後の成長性・サステナビリティが投資動機の大きな要因になります。実行のための戦略は?実行のための能力ある経営陣はどういう経歴と役割か?バックミラーに目をやり、後方確認も必要ですが、そればかりでは肝心の前方運転がおろそかになってしまいます。
レポートは地図のように「目指すゴールと経由地を確認しながら、その会社がどこへ進んでいくのか?」が明記されなければなりません。

では、レポートで将来性を提示するには、具体的にどんな要素や工夫が必要でしょうか。

日本のレポートでは“キードライバー”が見えてこないんです。経営者が何を基にして会社の経営をしているのか、いわゆる経営指標を提示する必要があります。その企業の売上の伸びや成長率などの数字は、指標に合うものでなければ意味がありませんから。競合他社や業界全体の成長率との比較、売上以外に将来性を示す指標を見せることで、投資家に客観的な判断材料を与えると同時に、経営者がどこに目を向けているのか、舵取りがしっかりできているかを提示できるのです。
また、アメリカではガバナンスのページなどで役員をもっと前面に紹介しています。計画だけでなく、それを実行する有能なメンバーが揃っている点をアピールします。

一貫したストーリー性をもたせる――A&Peopleが提案するIRツール

A&Peopleでは、欧米投資家・ステークホルダーの視点に立った、IRツールの翻訳・ツール制作に力を入れています。

せっかく特集記事を割いても、その製品・サービスの説明に留めるのではなく、その製品やサービスが今後の経営戦略にどういう布石となるのか、売上にどう影響するのかが記述されていなければ意味がありません。
テキストやグラフィックについても、ポイントはそれが“効果的”に使われているかどうかです。

日本では最近CSR(企業の社会的責任)関連の記事をよく見かけますが、その見せ方や分量(やや多すぎな感があります)には疑問を感じます。『植林しています』という報告では意味がない。CSR活動が経営にどんな影響を与えるかに触れていなければ意味がありません。アメリカでは、アニュアルレポートの制作には、雑誌作りのように編集にも気を配って作られています。テキストの量、見出しのキャッチ、内容に連動した写真やイメージの挿入…読ませるための見せ方の工夫がされています。

 

いいアニュアルレポートは、どこに何が書いてあるかが容易にわかり、内容が一目でわかるように作られています。表紙を見ただけでテーマ(経営方針・戦略)が伝わり、それに沿った内容で各コンテンツは作られています。表紙から裏表紙まで一貫したテーマに沿ったストーリー性があり、結果的に中長期のゴールが明示されているレポートが“いいレポート”なんだと思います。 要するにステークホルダーが知りたい情報がストーリー化されて掲載されているレポートです。

欧米では、環境への配慮もあって、アニュアルレポートの印刷部数を減らし、ホームページ上での掲載を中心とする傾向があるようですが…とお尋ねすると、「そうですね。ただ、印刷物とWEBでは読みやすさが違うので、単に印刷物をPDFにして掲載するのではなく、ページをめくらずにクリックで読み進められるHTML形式でテキストも抽出できるものも増えてきているように思います。」というアドバイスをいただきました。

最後に、ジャクソン氏のリフレッシュ法についてお尋ねしたところ、「柔術と読書」というお答え。
実はカラオケもお好きで、何度かA&Peopleの社員もご一緒しました。ご自分でギターを弾きながらのエリック・クラプトンの歌は、見事な腕前です!

A&People IRツール制作ページ