ジャクソン氏は財務監査コンサルタント/シニアアカウンタント、ITベンチャー企業のファウンダーの経験を活かし、現在はビジネス戦略コンサルタントの会社を経営されています。大学・大学院では会計学と日本語を学ばれ、デロイト トウシュ トーマツ Los Angelesでは監査内容の和訳や創業者・富田岩芳(とみた・いわお)氏のスピーチ原稿の英語への翻訳なども手がけていました。日本語を流暢に操るアメリカ人社員の中で、ジャクソン氏はずば抜けて“うまい英語を書く”、“表現が面白い”ということで定評があり、富田氏が彼を指名していたそうです。
A&Peopleでも、トヨタ自動車(代理店経由)のエグゼクティブの方々の海外でのスピーチ原稿などを担当していただいたところ、良い評価をいただき、その後多くのトヨタ自動車様の翻訳業務をお手伝いさせていただく事になりました。
公私ともに日本と関係が深いジャクソン氏に、ビジネス文書における日本語と英語の違いと、プロフェッショナルな英文ドキュメントとはどういうものが理想なのか、伺いました。
日本語は“柔らかい”言語ですね。文章が長くて表現が曖昧で、直接的な物の言い方をしません。相手を気遣い、相手に気づいてもらうよう曖昧に表現する優しい思いやりのある言語だと思います。 しかし英語はその反対で、大学のビジネス文書の講義では、簡潔でストレートに表現する訓練が徹底して行われます。そのため、ネイティブでも、そうした訓練を受けている人とそうでない人の文章は読めばすぐわかります。
このように相反する言語ですから、言葉を置き換える翻訳では自然な英語にはなりません。曖昧な表現をそのまま曖昧に英語に訳したら、それこそ何が言いたいのかわからない文になります。より良い英文にするには、日本語の裏にある意味を理解した上で英語をストレートに表現することが肝心です。
もちろん、文章の内容と事実は変えません。ただ、どう翻訳をするかは読み手によって変わってきます。自分が理解したことではなく、読み手が“感じる”(=納得できる)言葉でなければ、訴求させたいことをアピールできません。そうした翻訳をするには、英語がうまく書けるだけではなく、文章の内容や業界の事情に精通している必要があります。
それぞれのドキュメントには必ず目的があります。誰がだれに向かって書いているのか?何を伝えたいのか?何を訴求していきたいのか?それを踏まえて翻訳をしないと、ただ日本語の文章を英語に置き換えるだけでは、ドキュメントの持つ目的を達し得ません。よりわかりやすく、その文章を読んで容易に内容をイメージできる文章であることがベストです。
こんな風に口で言うのは簡単ですが、なかなかそれができている翻訳は少ないと思います。アニュアルレポートの文章レベルもその一例で、アナリストや機関投資家は何十、何百ものレポートに目を通すため、簡潔でわかりやすいプロフェッショナルライティングされた英文であることは基本条件です。