取締役会の多様性が投資家からの信頼につながる理由

ステークホルダーの多様性を反映した取締役会

取締役会の多様性は、企業の評判や投資家の信頼に大きな影響を与えると言われています。今回は基本に立ち戻り、取締役の多様性が企業にとってどのように有益なのかを振り返っていきます。

企業に求められているのは、ステークホルダーの多様性を反映した取締役会です。例えば、女性の顧客が多い企業では、女性の役員が多い方がステークホルダーからの信頼が向上します。また、異なる背景、経験、視点を持つメンバーが集まることで、意思決定の質が向上し、リスク管理を強化し、より包括的な企業文化を育むことができると言われています。

多様性によって向上する5つの分野

  • 意思決定の質: 多様性があるということは、あらゆる視点の見方が存在し、多様な意見が交換されることです 。異なる背景を持つ人々が協力することで、集団思考に陥りにくくなり、当たり前を疑い、変化の激しい時代に必要な意思決定が実現します。
  • リスク管理:均一なグループでは見落としがちなリスクを特定し、軽減することにつながります。ステークホルダーの多様性を反映した取締役会は、ステークホルダーに関連する課題を予測し、対策を講じることができます。
  • 企業イメージ:投資家をはじめステークホルダーは、ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンにコミットする企業を重視しています。異なる視点を受け入れ、多様な労働力を重視・尊重していることを強く示します。
  • イノベーション:異なる背景を持つ人々が一緒に働くことで、新しいアイデアを生み出し、現状を変える可能性が高まります。これにより、多様な顧客のニーズに応える革新的な製品やサービスが生まれることがあります。
  • 多様な労働力の確保:多様な取締役会は、組織全体に対して「多様性が重視され、尊重されている」という強いメッセージを送ります。あらゆる背景を持つ従業員が尊重され、より多様な労働力を魅了することができます。これは労働力不足が予測されている時代にとって非常に大切です。

このように、取締役会の多様性を向上させることは、多様で競争の激しいビジネス環境での成長、そして成功のための重要な足場となります。多様性を促進するための具体的な措置を講じることや、多様性に関するトレーニングの提供、すでにステークホルダーの多様性を反映した取締役会である場合はその旨をしっかりとアピールすることが重要です。

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米国トレンド:IRイベント
大規模カンファレンスからターゲットを絞ったコミュニケーションへ

米国で行われるIRカンファレンスへの参加は、米国企業そして海外企業にとっても、投資家との重要なつながりを築く重要な場とされています。そんな中、生まれている変化が注目されています。従来の大規模カンファレンスから、より深い関係を築く小規模かつ能動的なイベントを重視する傾向です。

今日の投資家は、単なる財務データや派手なプレゼンテーションだけではなく、企業文化や価値観、経営実態も投資判断に取り入れています。大規模なカンファレンスではこのような情報は伝えにくく、またターゲットを絞ったコミュニケーションも難しくなっています。

今回は、より深い関係を築くために効果的なIR活動を行う上で注目されているアプローチを紹介します。

カンファレンスの厳選

  • すべてのIRカンファレンスに参加するのではなく、具体的な目標や投資家のニーズに基づいて参加を選択します。
  • 主要な投資家ターゲットや関心のある分野に焦点を当てます。

ノンディール・ロードショーの実施

  • 特定のトピックに焦点を絞った小規模な集まりを通じて、ターゲットを絞ったディスカッションを提供します。
  • 関連性の高いトピックでの会話を通じて、有益なつながりを築きます。

企業全体の紹介

  • 取締役会とのミーティングだけにとどまらず、本社や事業拠点の見学や投資家訪問を行います。
  • 企業文化や事業運営、ESG原則へのコミットメントを直接感じさせることで、投資家に有益な印象を与えます。

エンゲージメント戦略との組み合わせ

  • 一つのアプローチではなく、自社の投資家の嗜好や目的に合わせてさまざまなイベントを組み合わせます。
  • バーチャル・ミーティングやウェビナー、少人数のグループ・ミーティングを大規模な対面イベントと組み合わせて活用します。

メッセージとアプローチの調整

  • 同じプレゼンテーションを繰り返すのではなく、オーディエンスやイベントのテーマに沿ってメッセージやアプローチを調整します。
  • ターゲットとなる投資家をリサーチし、彼らの関心や懸念に対応します。

自社の可能性を理解する投資家との関係を築く

投資家とのつながりを量的なものではなく、質的なものとして捉え、パーソナライズした情報提供やコミュニケーションが求められています。戦略的で的を絞ったアプローチを通じて、長期的な関係を築くことが重要です。

英文開示、何から取り組むべき ?

東京証券取引所は、「プライム市場」の上場企業には、2025年3月の上場維持基準に関する経過措置の終了にあわせて、更なる海外投資家の投資を呼び込み、対話を通じた企業価値向上を促していく観点からその基盤となる情報の英文開示を義務化する方針(さらに日本語と英語の同時開示義務化についても検討中) を公表しています
今後ますます企業の英文開示は求められていくこととなりますが、今回は海外投資家が求める情報についてご紹介いたします。

プライム市場での英文開示実施率

実施率全範囲英文開示抜粋、一部英文開示
決算短信89.3%45%44.3%
招集通知(通知本文、参考書類)87.6%54%33.6%
決算説明会資料67.3%58.7%8.6%
適時開示資料47.6%25%22.6%
有価証券報告書21.2%6.4%6.5%

出典:プライム市場 英文開示義務化に 向けた実態調査集計レポート (2023年8月末時点)/株式会社東京証券取引所 上場部
https://www.jpx.co.jp/equities/listed-co/disclosure-gate/survey-reports/nlsgeu000005qpys-att/jr4eth00000040cg.pdf

海外投資家が求める情報とは

前述にてお伝えした2025年3月を目途とした英文開示義務化では、決算短信、決算説明会資料、有価証券報告書、適時開示を優先的に義務化していくことが検討されています。 これらの情報は、海外投資家からのニーズが特に高いためです。
適時開示はマーケットを動かす重要な情報を含み、英文開示はもちろん最もタイムリーな開示が求められています。
有価証券報告書は情報量が多く英文開示のハードルが高い資料ですが、銘柄を広く調査する目的、またForm 10-K(米国証券取引委員会(SEC)に提出される年次報告書、米国版有価証券報告書とも言える。)に慣れ親しんでおりそれに相当する本資料をよく目に通すという声もあります。MD&Aなど経営者視点による分析、検討内容がある有価証券報告書は海外投資家にとって有用な情報です。
プライム市場での開示率が低い傾向の適時開示、有価証券報告書については上記の通り、開示することで多くの海外投資家を引き付けることができるでしょう。

また、有価証券報告書については2023年3月期決算企業から企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正によりサステナビリティ情報、女性活躍推進法に基づく女性管理職比率・男性の育児休業取得率・男女間賃金格差といった多様性の指標に関する開示が求められることになりました
決算短信、決算説明会資料では語られない重要な情報として、有価証券報告書の中でもこれらの項目から英文開示を始めていくことなど開示義務化に向け、様々な側面から検討してみてはいかがでしょうか。