アニュアルレポートのCEOメッセージ(Letter from the CEO)のベストプラクティス

過去と未来のバランスで関係性を高める

激動の2020年も終わり、年末には仕事面と個人面から激動の一年を振り返るチャンスが多くあったのではないでしょうか。過去を振り返って未来に思いを馳せていることは、より良い明日を作り出すチャンスでもあります。

これは、アニュアルレポートに掲載されるCEOメッセージにも当てはまります。ステークホルダーの利益を第一に考え、前年を振り返り、未来について語ることで、より良い関係性を作り出すことにつながります。

CEOメッセージの役割は、企業について、企業のパフォーマンス、経営陣の意思決定プロセスなどを株主が深く理解できるようにすることです。しかし、実際には、多くのCEOメッセージではこれを実現できていません。よく見逃されているポイントと、より良い挨拶を実現するためのポイントを紹介していきましょう。

CEOメッセージによくみられる欠点

•バランスが取れていない
成功ばかりを強調し失敗を説明しないため、単なるプロモーションに見えてしまいます

•冗長
CEOならではの、独自で価値ある視点を加えず、すでに発表された簡単にアクセスできる財務成績をまとめているだけの場合

•過去を振り返っていない
過去に定めた目標とそれに対する達成度をしっかりとレビューせずに、将来のゴールばかり語る場合

•誰かを責める
企業内の問題の原因を外部の環境としてしまう場合

CEOメッセージのベストプラクティス

失敗から成功の秘訣を学ぶことができます。優れたCEOメッセージのポイントは次のようになります。

•ステークホルダーは誰か
読み手はあなたの事業を深く理解したいと考えているパートナーであると考えましょう。マーケティングの対象である潜在顧客(または攻撃をしかけてくるアクティビスト)として扱うのはお勧めしません。

•バランスの取れた視点
前年度にうまくいった点、うまくいかなかった点の両方について説明します。

•コンテクスト
重要な業績指標を紹介する際に、その業績指標が自社の戦略とゴールにどのように関連しているか、コンテクストを説明します。

•プロセスを重視
経営陣が意思決定に使用しているプロセスを自分の体験として紹介します。

•文化
企業文化など財務情報以外の定性情報に関して端的に紹介します。

CEOメッセージの大切な役割

CEOメッセージがどんなに優れていても、それだけでは企業が素晴らしいわけでも、投資する価値があることでもありません。その逆も同様で、優れた投資先となる企業のCEOメッセージが素晴らしいとは限りません。

しかし、優れたCEOメッセージは大切な役割を果たします。ステークホルダーを理解している、自信と謙虚さのバランスをもったCEOは投資家から歓迎されます。優れたメッセーは、リーダーに適した性質をもったCEOがトップであることを投資家に示すことができます。

新型コロナウイルスでバーチャルIRが定着

不透明な経済と急激なオンラインへの移行

新型コロナウイルスのパンデミックによって、経済活動の行方が不透明となり、投資家はタイムリーかつ効果的なコミュニケーションを今まで以上に強く求めました。対面コミュニケーションが制限され、企業と投資家のコミュニケーションはオンラインに移行せざるをえませんでした。

パンデミックがバーチャルIRの実験の場に

多くの米国企業はコロナ前からオンライン上での業績発表や株主総会の実施の可能性を探っていました。そこに、パンデミックが起こったため、バーチャルへの移行が加速しました。結果、オンライン化のメリットが明らかになり、またその数値化もできるようになりました。パンデミックが去った後も、バーチャルスペースは新しいノーマルとして引き続き活用され、成長していくと考えられています。

対面ロードショーの課題

というのも、従来対面で行われていたロードショーでは、CEOやCFO、IRチームのメンバーが参加するために、高額の予算と機会費用が費やされていました。そのため、予算、時間、地理的な制限があり、費用対効果を最適化するために米国の大都市のみで行われるケースが多くなっています。

同時に、米国の大都市以外や米国外の潜在的な投資家やステークホルダーを掬い上げることができないという課題がありました。また、ロードショーを対面で行わなければその莫大な予算を戦略予算として費やすことができます。

関係性を築くためにはバーチャルよりも対面

もちろん、オンラインにも限界があります。多くの企業では、業績発表や株主総会のバーチャル化に積極的です。しかし、掘り下げた会話で関係性を築くチャンスであるインベスターデー(日本でいう投資家説明会)、 カンファレンス、ノンディールロードショーは画面越しよりも対面の方が有効であると考えられています。ただ、バーチャルIRの経験値が上がれば、この傾向も変わる可能性はあります。

IRとPRが似て非なるものと知る

▼ 混同することは企業へのマイナス
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金融危機から10年、規制当局や株式市場、各国政府は、より平等で
公正なグローバル市場を目指し、インサイダー取引を排除するための
努力を続けてきました。

市場が成熟していく中、イギリスの新聞で「Your IPO can dazzle
the stock market with the right communications
strategy and PR spin(コミュニケーション戦略とPRを
利用した情報操作スピンで市場をけむに巻きIPOを成功させる)」
という見出しの記事が公開され、議論を引き起こしています。
IRとPRが混同されるケースは少なくありませんが、これは
投資家そして企業の両方にとって大きなマイナスとなります。


▼ 投資は企業の将来の業績や利益に対するものであることを認識
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IR専門家にとってはショッキングな見出しですが、過剰な期待を
させない、透明性と一貫性を保つ、KPIを明確にするなど、記事には
実際にIRにおいて重要なことも含まれていました。しかし、全体に
流れるメッセージとしては、コミュニケーションだけで投資家を
正しい選択に導くことが可能で、どんな事実でも自分たちに
有利なスピンをかけることで、投資家にとっても企業にとっても
望ましい結果を得ることができるというものでした。
IRの視点において、投資家は企業の将来の業績や利益に対して
投資します。現在の業績に関するバラ色に色付けされた
プレゼンテーションに基づいて投資するのではありません。
また、投資家がもつ期待感は複数のアナリストの発表に
基づいて生まれものであり、細切れの情報を参考に
生まれるものではありません。


▼ IRとPRを混同することによるリスク
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企業がIRをPRと混同してしまうと、事実や数値に基づいた
情報ではなく、誤った約束やスピンを投資家に提供することになって
しまいます。これは、誤った証拠に基づいた投資を促すことであり、
将来的な関係性や信頼を失うことにつながってしまいます。
投資家に抱かせてしまった根拠のない信頼感は失望につながり、
長期的な株式価値に悪影響を与えることになります。
優れたIRとは、企業の経営陣の質、市場機会、事業戦略を
基盤とした情報によって、投資意欲を促すことです。
長期予測においては、この3点の柱に加えて、業績発表、
事業展望、ガイダンス、資本配分などを補助的な情報として紹介します。

また、高い期待をもたせる表現は使用しません。PRをIRの目的で
使用することは、企業は信頼を失い、市場はインテグリティを失い、
投資家はお金を失うことにつながりかねず、すべてのステークホルダー
にとって望ましくない結果を生み出します。

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◆ 参考・出典
『When spin takes over: Never, ever confuse PR for IR』
IR Magazine 2019年5月3日
https://www.irmagazine.com/case-studies/when-spin-
takes-over-never-ever-confuse-pr-ir