より多くの読み手にメッセージを届ける
プレインランゲージとインクルーシブランゲージ

近年耳にすることが多いプレインランゲージとインクルーシブランゲージ。このふたつは、実は切っても切れない関係にあります。

多くの人が簡単に理解できる、プレインイングリッシュ

読者が簡単に要点を理解できるプレインイングリッシュ*は、読み書きが苦手な人でも比較的理解しやすい英語です。また、要点が理解しやすいということは、翻訳しやすい英語であり、正確に翻訳されることで英語が母国語ではない人も情報にアクセスできる可能性が高まります。そのため、移民が多い英語圏の国では、プレインイングリッシュは多様性に考慮した言葉として扱われています。

*プレインイングリッシュとは、英語のプレインランゲージです。

さまざまなバックグランドを持つ人に敬意を示す、インクルーシブランゲージ

インクルーシブランゲージは、多様なバックグランドをもつ人たちに敬意を払う表現です。ジェンダーだけではなく、文化、人種、年齢、障害などの多様性に敬意を示しています。

MissとMrs.が旧時代的なのはわかる、でもMx.とは?

インクルーシブランゲージでは、社会の新しい「あたりまえ」が言葉に反映されます。

ひと昔前は、未婚の女性はMiss、既婚の女性はMrs.と表現され、女性のみが既婚か未婚かを表記する必要がありました。現在では、既婚か未婚かを問わず女性であることを意味するMs.が一般的になり、広く浸透しています。

新しく浸透しつつある表現がMx.(ミックス)です。これは、男か女を表現したくない人や、男とも女とも自認しないジェンダーニュートラルな人がMr.やMs.の代わりに選ぶことができる表現です。オーストラリアやイギリスでは政府も認めている表現となります。

姓と名のどちらがファーストネームかは文化によって違う

英語でよく耳にするfirst name(ファーストネーム:名)や last name (ラストネーム:姓)ですが、オーストラリア政府では政府関連の文書でこの表現を段階的に排除しています。

世界中の多くの文化で、姓と名の両方が使われています。しかし、姓と名のどちらを最初に名乗るかは文化によって異なります。そこで、ファースト(最初)やラスト(最後)といった順番を表す言葉の代わりにgiven name(与えられた名) と family name(家の名)が使われています。

自分事であると感じてもらえるメッセージを生み出す

今回はほんのわずかな例しか紹介できませんでしたが、インクルーシブランゲージを使うことの利点の一つに、メッセージが「自分に向けられている」と読者が感じることにあります。

プレインイングリッシュとインクルーシブランゲージを使うことで、より多くの読み手に「自分事」としてメッセージを届けることができるようになります。

https://www.stylemanual.gov.au/accessible-and-inclusive-content/inclusive-language
https://www.digital.nsw.gov.au/delivery/digital-service-toolkit/resources/writing-content/content-101/writing-for-inclusivity

よりわかりやすい世界共通語、プレインイングリッシュ
豪観光セクターでも注目

プレインイングリッシュ先進国であるオーストラリアでは、ビジネスにとどまらず、行政、病院、ツーリズムなど、あらゆる場面でプレインイングリッシュが活用されています。誰しもが情報を簡単に理解できるプレインイングリッシュは、国内外の観光需要を見込むセクターでも注目されています。
今回はオーストラリアの地方行政が観光需要を見込むビジネスに向けたプレインランゲージの基本についての記事を紹介します。プレインイングリッシュの基本を振り返っていきましょう。
日本国内でも観光需要を狙ったビジネスがプレインイングリッシュやプレンジャパニーズを使っているかどうか、ウェブサイトやソーシャルメディアをチェックしてみると面白いかもしれません。

プレインイングリッシュで大切な言葉の使い方7選

  • 不要な単語は使わない
  • シンプルな単語やフレーズを使う
  • YouやMeなどを使い、親近感が感じられる形式をとる
  • 能動態を使う
  • 技術的な専門用語を使わない
  • 略語を使う場合には、最初に略語ではない言葉を書き、その直後にカッコで略語を記載する。例:World Health Organization (WHO)
  • 難しい単語を使う必要がある場合は、読者がわかるように説明する

プレインイングリッシュの文体は、対面での会話を意識

  • 常に読者を心にとめ、フレンドリーな文体を使う
  • 対面で話す際と同じ言葉を使う

プレインイングリッシュの構成で重要な7選

  • 一番重要なポイントを最初に書く
  • 事実を述べる
  • 重要なポイントだけ掲載する
  • 順を追って情報を記載する
  • 短い文を使い、カンマなどをなるべく使わない
  • 一文は20単語以下に抑える
  • 一文に盛り込むのは一つのアイデアとする

完成した文書の見直しもプレインイングリッシュの要

文書を見直す際は、次の7点に注意します。

  • 文書の目的が明確にわかるか
  • 内容になじみのない読者でも理解できるか
  • 対面での会話でも同じ言葉を使うか
  • 削除できる不要な単語はないか
  • 短い文に分けることができる文や、短くできる文はあるか
  • 簡単な単語に置き換えることができる難しい単語はあるか
  • 情報の並び順は、わかりやすい並び順か

・Plain Language Association International (PLAIN)
https://plainlanguagenetwork.org/plain-language/plain-language-around-the-world/
・Tourism Greater Geelong & The Bellarine
https://tourismgeelongbellarine.com.au/topics/toolkits/tips-for-writing-in-plain-english/
・NSW Government website
https://www.digital.nsw.gov.au/delivery/accessibility-and-inclusivity-toolkit/communication/plain-and-inclusive-language

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プレインランゲージと頻繁なコミュニケーションで市場と対話
世界中の中央銀行で重要性が広まるプレインランゲージ

先月のThe Japan Timesでは、中央銀行とプレインランゲージの関係を取り上げていました。今回はその話題を中心にお伝えします。


日銀による7月の予想外の利上げが一因となり、8月の日本市場は大きく混乱しました。市場が混乱した一番の要因は、アメリカの政策にありますが、日銀のコミュニケーション不足が市場に大きな衝撃を与え、混乱を加速させたとの見方もでています。

世界の中央銀行で共通するプレインランゲージの重要性

プレインランゲージを使ったステークホルダーとの対話の重要性は、IRの世界の常識となりつつあります。しかし日銀のコメントには専門用語や曖昧な表現が多く、一般投資家はもちろんのこと、市場関係者にとっても理解が難しいケースが少なくありません。

日銀の氷見野副総裁は、「市場との対話を改善し続けるという強い意志を持っている」「コミュニケーションとは、何を伝えようとしたかではなく、実際に人々にどう届いたかだ」と述べおり、平易な言葉でコミュニケーションを行うことの重要性を指摘しました。

中央銀行が、一般の人々に理解できるような形で情報を発信することの重要性は、日本に限った話ではありません。ニュージーランド銀行のAdrian Orr 統裁も、プレインランゲージによるコミュニケーションの重要性を強調しています。

より頻繁なコミュニケーション

また、日銀の情報提供の場が少ないことも課題です。事前に予定されている場以外にコミュニケーションをとる場を設けず、予定されている場も多くはありません。

例えば、米国の連邦準備制度や欧州中央銀行は、日本よりも頻繁に情報を発信しています。米国の連邦準備制度は、定例会合の間にも40回以上の公の場で発言を行っており、欧州中央銀行も、ある1週間では2/3以上の理事会メンバーが公の場での発言を行っています。

金利上昇の可能性や方針転換の可能性について、市場で事前に情報提供することは、市場の混乱を抑えるために重要だと言われています。7月の利上げについても、事前に可能性を示唆していた場合、混乱は少なかったのではないかという見解があります。

コミュニケーションを行う場や人物が増えると、データの解釈や発言内容の統一に課題が生まれますが、プレインランゲージで頻繁にコミュニケーションをとることの重要性は、海外の中央銀行でも認識されています。

プレインランゲージを使って、頻繁にコミュニケーションをとるというIRの常識を日銀が採用する日も遠くないかもしれません。

参考:「BOJ on quest for better communication as more rate hikes loom」The Japan Times(2024年10月28日)

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