KISSの原則:複雑なシステムVSシンプルなシステム 優れたパフォーマンスを発揮するのはどちら?

KISSの原則は、1960年代に戦闘機を設計した際の教訓として生まれ、
エンジニアリングと設計の原則として認識されるようになりました。
現在では、ソフトウェア開発や教育の分野などさまざまな分野で活用
されています。プレイン・イングリッシュやIRコミュニケーションの
分野も例外ではありません。

KISSは「Keep it Simple Stupid:愚かなほどシンプルにしなさい」
の頭文字をとったもので、1960年、ロッキード社*のチーフエンジニアの
ケリー・ジョンソンが口にしたのが始まりとされています。

ジョンソンはチームメンバーに対し、何を設計するにしても
「戦場の兵士」が修理できることが大切だと説きました。
戦闘機が使用される前線では、基本的なメカニック知識とシンプルな
工具しか使えません。

シンプルで簡単に理解できる製品でなければ、戦場ではあっという間
に使えなくなり、役立たなくなるのです。

IRコミュニケーションの分野でも同じことが言えます。
「製品」(ここでは決算報告書、メモ、プレスリリースなど)が、
シンプルで誰にでも簡単に理解できるものでなければ、
ビジネスの現場(意思決定、投資、作業指示、従業員トレーニングなど)
で使用されず、役立ちません。

KISSとプレイン・イングリッシュに対するよくある誤解を解くために、
最後のS(Stupid:愚か)に当たる部分について少し説明しましょう。
Stupidは実際にStupidを意味しているわけではありません。
実際に意味することをより明確に表現するために、
KISSを「Keep it Simple and Straightforward:シンプルで
わかりやすく」あるいは「Keep it Short and Simple:
短くシンプルに」と表現する場合もあります。

プレイン・イングリッシュは、読者を下に見たコミュニケーション
であると誤解されることが多くあります。しかし、プレインであることも
シンプルであることも、Stupidであることとはまったく関係ありません。
Stupidなのは、戦場で修理できない戦闘機や、誰にも読まれない
IR資料です。シンプルな設計はレベルが低いと誤解されてしまうことが
ありますが、実際は高度な技術の象徴なのです。

KISSの原則を使って戦闘機の製品設計を行うことと、
プレイン・イングリッシュを使った文書の作成は同じです。
プレイン・イングリッシュの原則に従って文を書き文書を構成する
ことが高度な技術であることを理解していないと、
プレイン・イングリッシュがレベルの低い読者に向けたものである
ように感じてしまうのです。

来月は、さらに深く掘り下げ、プレイン・イングリッシュを使った
コミュニケーションによる価値創造について説明します。


*現在の米国の航空機・宇宙船開発製造会社である
ロッキード・マーティン社

言葉選びの大切さ

読み手にメッセージを伝えるためには言葉選びが非常に大切です。
ペンシルベニア大学の准教授Delphine Dahan氏は「不適切な用語を
選んだために、意味が伝わらなくなってしまうことがあります。
何かを表現するにあたり、自分にとっては一番効果的な用語でも、
他の人にはまったく意味が伝わらない場合もあるのです」
と説明しています。

同氏の発言は翻訳で使用する英語表現にも当てはまります。

美容院を例に見てみましょう。
美容師がお客様の頭を洗う際、水の温度が適切かどうかを
確認するのに、日本ではお客様に「熱くないですか」と聞きます。
この日本語を直訳して英語にすると「Is the water not hot?」
となります。この直訳は、英語話者にとっては非常に不自然に聞こえます。

たとえば米国では、
「How is the water temperature?(温度は大丈夫ですか?)」
または「Is the water too hot?(熱すぎませんか?)」
と聞きます。

選ぶ単語や表現方法が「正しい」か「間違っている」かは、
文化、世代、状況などのコンテクストにおいて一般的に使用される
表現かどうかによって決まります。

メッセージを明確に伝え、適切な使用方法を学ぶためには、
リアルな英語を使用している素材で英語を学習することが役立ちます。

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◆参考・出典一覧
https://omnia.sas.upenn.edu/story/widening-lens-language-study