個人投資家が求める情報とは?

コロナが火付け役となった個人投資ブーム

コロナ渦の影響で、日本を含む全世界に投資ブームが訪れました。しかし、2023年に入り市場は一服し、一世を風靡した投資アプリ「ロビンフッド」の月間アクティブ・ユーザー数も減少しています。ブームの一過性も指摘されていますが、個人投資家の存在感は着実に増しています。

米国における個人投資家の取引規模は、2011年には全体の10%でしたが、2022年までに22%へと倍増しており、2023年前半には毎日15億ドルもの取引が行われています。特に投資アプリの普及や手数料の安さ、少額からの投資が可能な環境、コロナ渦による政府からの給付金や柔軟な労働時間の増加が、個人投資家の増加を促進しています。ブラックロックによると、2020年に初めて投資した個人投資家の割合は15%にも達しています。

ETF中心の個人投資家、戦略的なポートフォリオを構築する機関投資家

個人投資家は、ETFを好む傾向にあり、個人投資家による投資全体の半数がETF(上場投資信託)となっています。また、全ETF取引の15%が個人投資家によるものです。個人投資家は一般的に、投資期間が短い傾向にあり、リスクが低い証券を好むことが多いです。これは、個人の資産保護を重視するためであり、短期的な変動に対する感受性が高いと言えます。

一方、機関投資家はより多様な選択肢を含むポートフォリオを構築することが多い傾向にあります。比較的長期的な視点を持ち、リスクとリターンのバランスを見極めながらポートフォリオを構築することが特徴です。

シンプルな情報を求める個人投資家

個人投資家と機関投資家は、求める情報が異なります。個人投資家は深い専門知識をあまりもっておらず、詳細な数字よりも重要な情報のハイライトを求めています。そのため、企業は簡潔かつ分かりやすい情報開示を心がける必要があります。ソーシャルメディアによるイメージ戦略や、企業哲学・ミッションなどを含む企業のストーリーを明確に伝えることが重要です。

一方で、機関投資家はマーケットに対する深い洞察を持っており、より詳細な情報を求めています。例えば、経営陣の経歴や経営戦略に高い関心を持つ傾向がありますが、個人投資家は各経営陣の経営に関する考え方を知ることは多くの場合特に求めていません。

求められるプレインランゲージと見やすいハイライト

求められる情報は違いますが、事業の業績や事業内容のハイライトなど、一瞬で大まかな情報を把握できるページに注力することは重要です。個人投資家にとっては求める情報であり、機関投資家にとっては概要をつかむために役立ちます。複雑な情報もシンプルな情報も、プレインランゲージを使った読みやすい表現が、あらゆる投資家に求められています。

英文の表やグラフ内での記号表記について

近年、決算短信や説明会資料だけでなく、有価証券報告書や統合報告書などのIR資料も英文開示の必要性が高まってきています。
その中で、日本語にはあって、英語にはない表現が見受けられます。例えば、マイナス表記です。日本語では、△で表現されますが、英語では括弧などで表現されます。本文では、表やグラフの表現について表記の違いについてみていきましょう。

記号表記の違い

日本語で開示された文書をみてみると、視覚的に正誤を表す記号「◎」、「〇」、「×」などで表現されていることがあります。日本人にとって、「◎」=非常に良い、「〇」=良い、正しい意味、「×」=悪い、誤った意味というように、視覚的に一目ですぐ理解ができます。

一方で、英語話者にとっては、どうでしょうか。
英語では、良い、正しい意味の場合「✓」で表現し、反対に、悪い、間違いなどの意味の場合は、「×」のほかに「-」を使用し表現することもあります。
そのため、英訳をする場合には、文書だけではなく、表内の記号についても上記のように、置き換えるなど表現の工夫が必要です。
また、記号ではなくとも資料の内容によっては、「High」や「Low」など単語で置き換えることで、読者の理解を仰ぐ表現も可能です。

文章のみならず、誤解のない文書とするために表内の記号の表現にも工夫することや、気を付ける必要があります。

進化するマテリアリティ

グローバル企業が導入するESG時代の新トレンド

企業の情報開示において、マテリアリティが重要であることは広く知られています。近年、ESG時代に合わせてマテリアリティが進化した、ダブル・マテリアリティという考え方が注目を集めています。

ダブル・マテリアリティとは、企業の財務的価値と気候変動など環境への影響、人的資本や社会的問題など、企業と世界全体、両方にとっての重大事項を開示することを促す考え方です。これは、企業が世界に与える影響は金銭的な影響にとどまらないというESG時代の認識に基づいています。

ユニリーバネスレウォルマートマイクロソフトなどの巨大企業が、ダブル・マテリアリティを統合報告書やCSR報告書に盛り込んでいます。

財務と社会・環境インパクトの2つの要素を分析

ダブル・マテリアリティは、2019年に欧州委員会が「非財務報告に関するガイドライン」で提案したコンセプトです。財務と社会・環境インパクトの2つの観点からマテリアリティを判断することを促すものです。GRI (Global Reporting Initiative)では両方の観点を含めることで初めてマテリアリティとしての意義を持つとしています。

ダブル・マテリアリティの2つの観点とは次のようになります。

  • 財務マテリアリティ:投資家に利益を与えるという側面での経済価値創造に関する情報です。企業の発展、業績、地位を理解するため、企業価値に影響を与えるという広い意味もあります。
  • インパクト・マテリアリティ(社会・環境的マテリアリティ):投資家、従業員、顧客、サプライヤ、地域社会など複数のステークホルダーに与える経済、環境、人間、社会的な影響などの観点です。

たとえば、ネスレでは、人間や環境と事業の両方へインパクトを与えるマテリアリティとして、原料サプライチェーンによる環境・社会的なインパクトを上げています。

ダブル・マテリアリティをはじめ、企業開示は急激に高度化していますが、これまで以上に開示に至るまでの検討を重ね、その内容がわかりやすく開示されることが非常に重要です。