スタイルガイドの活用

スタイルガイドとは?

弊社ではメールマガジンを通して、表記についてこれまでもご紹介してきました。(2023年6月号:「漢字表記とひらがな表記」、2023年9月号:「英文の表やグラフ内での記号表記について」など)

これらのような文章の表記や言葉、タイポグラフィを規定したものをスタイルガイドといいます。英語では一般的にシカゴマニュアルが用いられています。しかし、日本語ではシカゴマニュアルのような一般的なスタイルガイドが存在しないため、『記者ハンドブック』(共同通信社)などが参考にされることが多いです。

それらのルールがすべて必ず正しいということではなく、その文書の用途や対象者、好みによって表記が異なってくるため、独自のスタイルガイドを作成することで、文書内の統一が図れます。

そこで、スタイルを決めておくと便利な項目と、その表記例をいくつかご紹介いたします。

  • マニュアルの手順は句点の有無や動詞、命令形、名詞など表記が揺れやすいです。

~をクリックする(句点の有無)
~をクリックしてください(句点の有無)
~をクリック

  • UIの表記は、オリジナルの表記も記載するか、日本語のみにするか、統一をすることでユーザーが識別しやすくなります。

[ヘルプ]
[ヘルプ(Help)]

  • 参考文献は専門分野によって推奨される表記はありますが、ページ数や著者名など一つルールを決めておくと便利です。

13-15
pp. 13-15
Smith, M. T.(ラストネーム, ファーストネームイニシャル. ミドルネームイニシャル.)
Smith, Mary.(ラストネーム, ファーストネーム.)
Smith, Mary T.(ラストネーム, ファーストネーム ミドルネームイニシャル.)

  • 単位の表記は日本語表記と単位表記がありますが、文章の内容によって使い分けることもポイントの一つです。

ミリメートル、mm
km/h、km/時、キロメートル/時、キロメートル毎時
度、℃

  • 社名は自社、他社によって正式名称にするか、略称を使用するかなど、日本語と英語も含めて複数通りの表現があります。

株式会社エイアンドピープル(株式会社を常につける)
エイアンドピープル(2回目以降株式会社はつけない)
We/The company/ A&People(英語の場合)

ブランドガイドライン

ブランドガイドラインもスタイルガイドの一つと言えます。ブランドガイドラインとは、ブランドの一貫したイメージを保つための独自のルールブックです。

「そのブランドらしさ(ブランドアイデンティティー)」を可視化して、ユーザーやクライアントへの理解と認知を深める効果があります。また社内で資料作成のルールが決まっていることで、作業の効率化も図れます。

こちらも例をご紹介します。

  • ロゴ

ブランドの顔ともいえるロゴは、既定の比率や使用する背景色のパターンを決めることで「○○といえば!」と印象に残りやすくなります。

  • ブランド名、製品名

特に翻訳で表記揺れが起こりやすい部分です。原文どおりの表記/言語ごとの表記/ローマ表記/カタカナ表記など、ルールを決めておく必要があります。

  • 配色

決まったカラーパレットを用意することで、誰が資料を作成しても一定の統一感のある資料になります。

  • フォント、サイズ

配色と同様の効果があります。翻訳する際、英語はどうしても文字数が多くなってしまうため、日本語と英語で最低ラインのフォントサイズを決めておくことをおすすめします。

スタイルガイドやブランドガイドライン作成の参考にしてみてはいかがでしょうか。
また翻訳の際のスタイルでお困りの場合は、ぜひお気軽に弊社までご相談ください。

反ESGがインベスター・リレーションズの新トレンド!?

財務的な成功とESGは共存できるのか?

2023年、様々なトレンドがインベスター・リレーションズ界を賑わせました。2024年も多くの新しいトレンドが台頭してくるでしょう。今回は、2023年頃から注目を集めはじめている、「反ESG」について紹介します。

現在では、持続可能性や社会的責任、優れたコーポレート・ガバナンスなど、企業のESGに関する取り組みに注目して投資判断をすることが一般的になっています。しかし、2023年頃から、ESGの有効性や財務リターンへの影響を疑問視する反ESGが注目を浴びています。

低支持率ながらも増加している反ESG株主提案

2023年には、反ESGの株主提案は2022年よりも大幅に数を増やし、今年も増加すると考えられています。全株主提案の10%程度が反ESGであったとするリサーチもあります。ただし、株主投票を行った際の支持率は平均5%前後と低く、提案を再提出するために必要な最低ラインにも達していないケースがほとんどです。そのため、反ESGは、重要性を増すESGに対する一時的な反動で、全体としての影響は少ないという見解が一般的です。

とはいえ、反ESGでは、どのようなことが懸念されているのでしょうか。趣旨としては次のようなものがあります。

  • ESGは財務パフォーマンスよりも環境・社会指標を優先し、株主価値を損なう。
  • ESGデータは主観的で測定に一貫性がないことが多く、企業の真のESGパフォーマンスの評価は難しい。
  • ESGコンプライアンスを重視するあまり、中核的な事業運営や戦略的目標から目を逸らしている。

反ESGが浮き彫りにするESGの課題

実際には、財務パフォーマンスとESGが共存することは多くのリサーチで明らかになっています。ESGの統合が戦略的に行われれば、事業運営の強化とリスク軽減につながり、優秀な従業員を惹きつけることができます。

しかし、反ESGはESGに関する次の重要性を浮き彫りにしています。

  • ESG原則に対する企業の真のコミットメントを効果的に伝えること。
  • ESGの実践が長期的な価値創造にどのように貢献するかを示すこと。
  • 透明性のあるデータ主導のESG報告に取り組むこと。
  • データの質やESG関連の施策の実施に関する正当な懸念や疑問に対応すること。

特に、評価可能なデータの定義は改善が必要なプロセスであり、ESG格付機関は継続的な改善に努めています。

変化を続けるESG

ESGが定着するにつれ、ESGの考え方に変化も生まれています。ESGという幅広い意味を含んだ用語から、気候変動リスク、従業員の福利厚生、多様性と包括性など、より具体的な言葉が多く使われるようになると考えられています。

ESGという言葉やESGに対する株主の考え方にかかわらず、財務パフォーマンスと責任あるビジネス慣行とのバランスをとる全体的なアプローチが、長期的なビジョンを共有する投資家と強固な関係を築くことにつながります。

英文開示、何から取り組むべき ?

東京証券取引所は、「プライム市場」の上場企業には、2025年3月の上場維持基準に関する経過措置の終了にあわせて、更なる海外投資家の投資を呼び込み、対話を通じた企業価値向上を促していく観点からその基盤となる情報の英文開示を義務化する方針(さらに日本語と英語の同時開示義務化についても検討中) を公表しています
今後ますます企業の英文開示は求められていくこととなりますが、今回は海外投資家が求める情報についてご紹介いたします。

プライム市場での英文開示実施率

実施率全範囲英文開示抜粋、一部英文開示
決算短信89.3%45%44.3%
招集通知(通知本文、参考書類)87.6%54%33.6%
決算説明会資料67.3%58.7%8.6%
適時開示資料47.6%25%22.6%
有価証券報告書21.2%6.4%6.5%

出典:プライム市場 英文開示義務化に 向けた実態調査集計レポート (2023年8月末時点)/株式会社東京証券取引所 上場部
https://www.jpx.co.jp/equities/listed-co/disclosure-gate/survey-reports/nlsgeu000005qpys-att/jr4eth00000040cg.pdf

海外投資家が求める情報とは

前述にてお伝えした2025年3月を目途とした英文開示義務化では、決算短信、決算説明会資料、有価証券報告書、適時開示を優先的に義務化していくことが検討されています。 これらの情報は、海外投資家からのニーズが特に高いためです。
適時開示はマーケットを動かす重要な情報を含み、英文開示はもちろん最もタイムリーな開示が求められています。
有価証券報告書は情報量が多く英文開示のハードルが高い資料ですが、銘柄を広く調査する目的、またForm 10-K(米国証券取引委員会(SEC)に提出される年次報告書、米国版有価証券報告書とも言える。)に慣れ親しんでおりそれに相当する本資料をよく目に通すという声もあります。MD&Aなど経営者視点による分析、検討内容がある有価証券報告書は海外投資家にとって有用な情報です。
プライム市場での開示率が低い傾向の適時開示、有価証券報告書については上記の通り、開示することで多くの海外投資家を引き付けることができるでしょう。

また、有価証券報告書については2023年3月期決算企業から企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正によりサステナビリティ情報、女性活躍推進法に基づく女性管理職比率・男性の育児休業取得率・男女間賃金格差といった多様性の指標に関する開示が求められることになりました
決算短信、決算説明会資料では語られない重要な情報として、有価証券報告書の中でもこれらの項目から英文開示を始めていくことなど開示義務化に向け、様々な側面から検討してみてはいかがでしょうか。