プレイン・ランゲージ(平易な言語)とは

以前に比べて日本でもプレイン・イングリッシュについて
注目度が上がってきました。少し前の資料ですが金融審議会
「ディスクロージャーワーキンググループ報告」(2018年6月)
でもわかりやすい開示という点において、
プレイン・イングリッシュの概念が参考として記載されています。

『(略)米国では、SEC(米国証券取引員会)が、平易な言葉で
明確、簡潔に、整然とした構成で記載すべきという
“Plain English”の概念を、一部の非財務情報に適用している。
また、英国では、FRC(英国財務報告評議会)が、適切で容易に
理解可能な情報が投資家に提供されることを目的として、2015年に
“Clear & Concise”を公表し、優れた開示の実例を紹介している。』

そしてプレイン・イングリッシュと同様に注目されている考え方
としてプレイン・ランゲージ(平易な言語)があります。
基本的な考え方はプレイン・イングリッシュと同じですが、
英語に限らず他の言語でも、読者ができるだけ迅速、容易に
そして完全に内容を理解できるように書く手法です。
提供しているサービスや制度が利用しやすいように公的機関は
プレイン・ランゲージを使うように法律で定めている国もあります。
またWHO(世界保健機関)では効率的なコミュニケーションのために、
プレイン・ランゲージの使用を原則としています。

日本でも今後さらに外国人が増えるにあたり平易な日本語への
取組みが進んでいます。
いずれもコミュニケーションの円滑化、生産性の向上を目標としており、
世界的に意識が高まっている取組みといえます。

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◆ 参考・出典一覧
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20180628/01.pdf

財務報告書の進化とプレイン・イングリッシュ

プレイン・イングリッシュは、数年前には想像できなかった速さで
IRの世界に浸透しています。この背景には、投資家が財務報告書に
求めることが変わったことや、規制の変化があります。
数字だけではなく、その背景や計算方法を財務諸表上で
説明することが求められるようになったのです。
説明内容は得てして複雑で、表現する言葉も冗長になりがちです。
そんな内容を読者に伝わるように発信するには、
プレイン・イングリッシュを使って
わかりやすく表現することが必要不可欠です。

ここ数年、日本の会計原則でもキャッシュフロー計算書の
提出が義務付けられ、年金などのより複雑な勘定科目の
掲載も義務付けられるようになりました。
開示が進化し、複雑な事実に対する透明性が
より求められるようになったことで、開示内容に関する
説明やコメントを付け足す必要性も上がってきました。

このような背景の中、企業が数字を開示すれば投資家が
満足していたのは過去となり、今の投資家を満足させるには、
数字の背景となるストーリー、つまり、
開示している結果に至った理由を説明することが
求められるようになりました。

このニーズが生まれた背景には、
企業スキャンダルや、複雑な会計基準、企業が
運営する環境から生まれる外部リスクなどが
原因として考えられます。

さらに、財務指標が過去の状態を表す指標であると
認識されるようになり、投資家は将来を
予測するにあたり必要な、この先の業績を予測することが
できる指標を求めるようになりました。
そのため、非財務指標が活用されるようになってきています。
例えば、顧客満足率が下降傾向にあれば、
今までと同様の売上成長や利益率を維持することは
できなくなることが予測できます。

もし現実に未来の業績が危ぶまれるような状況に陥った場合に
大切になるのがコミュニケーションです。
企業が結果を受け止め、真摯な議論を行い、
その結果を開示することで、投資家が保有株式を
処分する可能性は少なくなります。
投資家の行動は開示される議論の内容によって、
変化するのです。

業績の背景にあるストーリーや理由、
非財務指標に関する議論の内容などを
世界の投資家に向けて発信するために
日本語から英語に翻訳する場合は、翻訳の質が
投資家に与える印象を大きく作用します。
このような状況でプレイン・イングリッシュが
非常に大切になります。

プレイン・イングリッシュで必要な情報を伝える

プレイン・イングリッシュを使用する目的は、
オーディエンスと効果的なコミュニケーションをとることにあります。
効果的なコミュニケーションにより、オーディエンスから
こちらが求めているアクションを引き出したり、
メッセージの意図を理解してもらうことができるようになります。
プレイン・イングリッシュを使った分かりやすい表現を使う際には、
この目的を常に意識しましょう。

グローバル投資家にとっての大きな懸念は、形式に従っただけの
情報と現実的な情報を見分けることにあります。
代表的な例に、コーポレートガバナンスに関する情報開示を
挙げることができます。大手投資ファンドの投資基準は年々
上がってきており、独立役員や女性役員の数を書き出すだけでは
投資決定に影響を与えることはできません。
また、情報を開示することでガバナンスや取締役会の効果を
維持するという目的も果たすことはできません。

「取締役会の効果は、究極的には取締役会の活動、
そして取締役の行動によって決まります。その形態は関係ありません」
ピーター・クロー

大手投資ファンドの発言に注目することで、
プレイン・イングリッシュを使って「効果的に」対応する方法を
考えることができます。投資家の声を無視して、政府当局の規制などの
ルールに準拠するだけの対応は、付け焼刃的な対応であり、
意図しているオーディエンスである投資家に必要な情報を
届けることができません。また、投資家は投資判断を行う上で
必要な情報を得ることができません。

最後に、日本株式に大きく投資している
国際大手機関投資家の言葉を紹介します。

ブラックロック
「発表している長期戦略の実践を効果的に監督し、
経営陣をリードするために必要な実力や経験などを取締役会が
有しているかについての考えを開示するよう、
企業に働きかけています。適切な役員後継計画が存在しない場合、
独立した会長およびトップ独立役員、指名・ガバナンス委員会の
メンバー、任期が最長の役員などに対して反対投票を
する可能性があります。」

ステート・ストリート
「スキル、経験、独立役員のバランスが取れた取締役会は、
ガバナンスが優れた会社の基本となります。取締役会の質を
判断するにあたっては、独立役員の数や質、後継者計画、多様性、
評価や交代、企業のガバナンス活動などに基づいて判断しています。
(中略)取締役会はメンバーのスキルや経験を継続的に評価し、
取締役会としての能力を向上させていくために必要なスキルや
経験などのギャップを埋めていく必要があります。」

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◆ 参考・出典一覧
Ethical Boardroom 『Strengthening Boards』
https://ethicalboardroom.com/strengthening-boards