グローバル企業がロシアから撤退 スピード感と透明性で難しい状況を乗り切る

グローバル企業がロシアでの事業を中止するというニュースを多く耳にするようになりました。企業の売上や利益に大きな影響を与える決定が、驚きのスピードで下されています。
企業が「外交政策」的な意思決定を行う時代の本格的な幕開けです。

行動をしないことがリスクに

ロシアでの事業を中止すれば、売上を失い、事務所や工場を閉鎖するためのコストも発生します。短期的には損失が大きなことは明らかです。それでも、何も行動を起こさない場合のリスクが大きいと判断され、事業の撤退が進んでいます。その大きな要因のひとつが消費者によるプレッシャーです。

ウクライナ情勢に関して行われた調査では、「ロシアでの事業を継続するべき」、「特に対応を取る必要はない」と考えているアメリカ人はわずか4%でした。ソーシャルメディアでは、自社の立場や意見を明らかにしない企業に対して、多くの批判が寄せられています。

企業哲学と行動を一致させる~マクドナルド社の場合~

今回のような状況では、意思決定のプロセスを開示し、良い面と悪い面の両方を伝えることが重要です。

例えば、マクドナルド社は、プレスリリースを通して事業撤退に至るまでの意思決定プロセスを公表し、自らのジレンマを明らかにしています。

また、企業哲学を意思決定のプロセスに結び付けることも大切です。掲げている哲学に見合った行動をとらないと、批判や顧客・従業員間の不満が生まれます。

マクドナルド社の場合は今回の決断を自社のコアバリュー「Doing the Right Thing(正しいことをする)」に結びつけています。

3つのポイントを押さえた意思決定をする

今回のような迅速で難しい意思決定を求められる状況で、明確なコミュニケーションを実現するためには、次の3つのステップが役立ちます。

1)ステークホルダーが何を望んでいるかを理解します。アンケートやフィードバックなど、開かれたコミュニケーションを促します。

2)行動にイノベーションを加えます。例えば今回の状況では、ロシアでの事業を中止するだけではなく、従業員や顧客が人道的な活動の一旦を担うことができる工夫をします。ブランドの影響力を高めたり、大きな信用を得るチャンスでもあります。

3)行動を共有します。ウェブサイトにとどまらず、ソーシャルメディア、イントラネット、小売店なども活用してステークホルダーとコミュニケーションをとります。

ジェネレーションギャップを放置しない ダイバーシティ&インクルージョンに関する新しい注目ポイント

企業におけるダイバーシティ&インクルージョンの重要性が指摘されている昨今、特に注目されているのが世代の違いに関係するインクルージョンです。

寿命と定年の年齢が延びている現在、5世代が労働力として活躍しています。

  1. サイレント・ジェネレーション:1922~1945年生まれ
  2. ベイビー・ブーマー:1946~1964年生まれ
  3. ジェネレーションX:1965~1980年生まれ
  4. ジェネレーション Y(ミレニアル世代):1980~1996年生まれ
  5. ジェネレーションZ:1997~2012年生まれ

離職理由の一つが「有毒な企業文化」

各世代の仕事への姿勢は大きく異なっています。姿勢の違う5世代をまとめ、育て、能力を発揮できるようにすることが企業に求められています。

新型コロナウイルスのパンデミック後の大量離職によって、企業はこの課題に対応する大切さを身に染みて感じています。退職や休職、キャリアの再考などの理由のトップ2は「燃え尽き症候群」と「有毒な企業文化」です。特にミレニアル世代にこの傾向が強くなっています。

5世代すべてが活躍できる環境の作り方

離職の原因となる企業文化を解決しようとしても、異なる考え方が混在しているため、一つの解決策で全世代の問題を解決することはできません。

従来のダイバーシティ&インクルージョンの課題と同じように、異なる世代の従業員に対する無意識の偏見を取り除くためのトレーニングが必要不可欠です。また、世代間の意識が異なることを認識してもらうと同時に、従業員がお互いを一人の人間としてみることも必要です。先入観を持つことなく接し、自分の考え方を押し付けるのではなく、個人としてコミュニケーションをとる必要があります。

個々の従業員の特徴を大切にすることで、現場レベルから健全な社内文化を築くことができ、従業員と雇用主、そして従業員間の分裂を和らげることができます。

新しいIRオフィサーの形

企業の代表として重要な質問に答えられるIRチームを作る

アクティビスト投資家やインデックスファンド、そして長期投資家の多くが強く意見を主張することが当たり前の時代になっています。そうした意見に対応できるIRチームが求められています。

投資家は、プレスリリースや業績の発表からの情報では十分でないと感じています。発表されたリリースなどに対する、企業側の実のある意見や見解を聞きたいと考えています。

そのため、企業戦略、ESG、役員報酬、取締役会の構成などに関して、企業を代表して答える能力がIRチームに求められています。このようなニーズに対応できるチームを作るためには、取締役会やCクラス役員による投資計画の議論にIRチームが参加することが有効です。

企業戦略に沿って投資価値を創造する

このような変化がIRチームに求められるようになった背景には、社会が価値創造を重視するようになってきたことがあります。資本配分がどのように企業戦略に沿っているのかをCFOが議論する必要があるのと同様に、IRチームは企戦戦略に沿った価値創造をすることが求められます。

企業戦略を通じて株主価値を生み出す方法やプロセスは、長期投資家を集め、維持するプロセスでもあります。それゆえに、IRチームは企業の長期戦略と資本配分の関係を深く理解する必要があります。