コロナパンデミックにおける株主総会に関する各国の対応

▼ 株主総会延期、またはバーチャルかハイブリッドでの開催
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コロナウイルスのパンデミックに伴い、イギリス、アメリカ、
そして大陸ヨーロッパにおいて、株主総会に関連する法の
変更と新しいガイドラインが発動されています。
株のアクティブオーナーシップという考え方を尊重しながらも、
パンデミックの中で「社会全体の健康に対する義務」を
個人や企業が果たしていくことを目指しています。

▼ スイスでは非公開の株主総会
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スイスでは、非公開で株主総会を実施することが
政府から許可されました。それに伴い、エレベーターメーカーの
Schindlerでは、株主が参加しない年次総会を実施しています。
DKSHなど他の企業では株主総会の延期を決定しています。

ガバナンス助言団体EthosのCEO は、株主総会を非公開にすると、
株主が問題に感じている事項について取締役会や
経営陣に直接伝える重要な機会が失われるため、株主が
経営に関与できないとして懸念を示しています。
同時に、株主投票の面においては、ほとんどの投票がプロキシを
通じて投票されているので、ほぼ影響はないと指摘しています。

▼ スペインではバーチャルのみでの総会が可能に
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緊急事態を宣言したスペインでは、3月15日からロックダウンを実施。
国民は必要最低限の外出のみが許可されています。
そのため、バーチャルのみでの株主総会が許可される決定が下されました。
この決定は、コロナが経済に与える影響を緩和させるための
「経済的そして社会的なシールド」を作り出す一連の決定の一部です。
ポイズンピル( 敵対的買収に対する企業の防衛策の一つ)の一種として、
海外の投資家によるスペイン上場企業株式の10%以上の買収を
政府が拒否することができる決定も下されました。
また、スペインの証券監督者は空売りを禁止しました。

▼ オランダでは延期またはハイブリッドでの開催
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オランダではバーチャルのみでの株主総会の開催は許可されておらず、
3社が株主総会の延期を決定しています。他の企業もこの決定に
追随することが予測されます。延期のもうひとつの理由としては、
取締役会が配当提案や自社株買いプログラムを再度検討する必要が
あるという点もあります。ハイブリッド方式で株主総会を
実施する企業もあり、これによりライブ投票は実現しますが、
株主は取締役会に対して質問をすることができません。

▼ イギリスでは株主の参加を最大化するための工夫を推奨
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イギリスでは、Chartered Governance Instituteと
法律事務所Slaughter and MayがCovid-19の影響を受けて
株主総会に関するガイダンスを発表しました。その発表において、
株主の総会への参加機会を最大化する試みが提言されています。
プロキシ投票の推奨、オンラインでの株主の質疑応答、
株主総会のライブストリームなどを検討することが
適切であるとしています。また、個人投資家に対して
取締役会とコミュニケーションを取れる場を年内に
開催するということも提案されています。

▼ 米国ではSECがガイダンスを発表
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米国では、バーチャルまたはハイブリッド型の株主総会を行い、
株主に対して遠隔でアクセス、参加、投票できるように
企業が明確なガイダンスを提示することが推奨されています。
関連する企業向けのガイダンスをSECが発表しています。
株主提案に対しては、今年の株主総会シーズン中に
電話などの方法により機会を提供することが求められています。

詳しくお知りになりたい方は下記をご覧ください。
『CORONAVIRUS: Switzerland allows ‘closed door’ AGMs, as others are postponed or held virtually across Europe』
RESPONSIBLE INVESTOR  2020年3月18日
https://www.responsible-investor.com/articles/coronavirus-switzerland-allows-closed-door-agms-as-others-are-postponed-or-virtually-held-across-europe

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◆ 参考・出典一覧
『CORONAVIRUS: Switzerland allows ‘closed door’ AGMs, as others are postponed or held virtually across Europe』
RESPONSIBLE INVESTOR  2020年3月18日
https://www.responsible-investor.com/articles/coronavirus-switzerland-allows-closed-door-agms-as-others-are-postponed-or-virtually-held-across-europe

IRの未来~変わり続ける環境に順応する~

IROとして15年のキャリアをもつNIRI(全米IR協会)メンバーが
IRの今後について語りました。過去15年の間、IRに求められるスキルは
著しく増えました。また、テクノロジーの進化にともない、IRO自身も
進化を遂げています。

2005年頃、ソーシャルメディアは子供の遊びにすぎないと考えられて
いました。また、多くの人が「持続可能性」は環境問題に直結する
ビジネスの問題だと考えていました。アクティビスト・シェアホルダーは
企業にとって邪魔ものであり、企業はフルカラーの分厚い
アニュアルレポートを作成するなど、IRを取り巻く環境は今とは全く
異なるものでした。
この15年で時代は大きく変わりましたが、一体IRの未来は
どのようなものになるのでしょうか?

▼ 破壊的チャンスの到来
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今後、IRの役割はより重要になり、企業はより多くのリソースを
つぎ込むようになると考えられます。ただし、IRは環境やテクノロジーの
変化に対応できない場合、生き残ることは難しいかもしれません。

IRに求められるスキルは毎年増えています。コミュニケーション、
財務・会計、市場、コーポレートガバナンス、規制対応、持続可能性、
危機管理、AI・データ分析、競合情報分析などは、いまやIROに
求められているスキルのわずか一部です。IROはその増え続ける要求に
応えることができるのでしょうか?もちろん、複数の分野で実力を
発揮するIROも存在するでしょう。しかし、実際には、チームでの
IR活動が行われるようになると予測されます。

▼ チームでの活動が主体に
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IRチームのサイズは大きくなり、その役割もより特化されると
考えられます。従来IRチームは小規模で、1~2人で担当するのが
一般的でした。
しかし、将来的には、複数の分野での経験を有するチームリーダーが
コーチとしての役割を果たし、メンバーがプレイヤーとしてサポートする
チーム形式が主流になると考えられます。

企業はIR部門を強化するためには、財務・会計、市場、コーポレート
ガバナンス、規制対応、持続可能性、危機管理、AI・データ分析、
競合情報分析などの中から、IR部門に必要なスキルを特定する必要が
あります。これらの役割は現在でも企業内に存在していますが、
IR組織の一部とすることで、よりターゲットを絞った戦略を
実現することが可能になるでしょう。

▼ ウェブサイトをチームメンバーとして活用する
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また、IROが活用できるテクノロジーが多く開発されており、新しい
テクノロジーがIRの役割をサポートするようになっていきます。
IRウェブサイトを統合テクノロジープラットフォームとして今まで以上に
活用することも有効です。投資家が企業についてリサーチする際の
第一歩がウェブサイトです。現在、IRウェブサイトの「よくある質問」に
掲載されている質問は、誰も聞かないような質問であることが多々あります。
そのため、ここで質問の答えを得られなかった投資家は企業に連絡をとり、
ミーティングを要求してきます。

オンラインショッピングサイトのようにチャットボットを採用することで、
質問により効率的に対応することが可能です。IRウェブサイトは
投資家がIROとの面談をスケジューリングするためにも活用できます。
特に小さいIRチームは活用することで、IROが戦略的なタスクや
投資家との建設的な対話にエネルギーを注ぐことが可能になります。
IRウェブサイトをチームメンバーの一員として考えることをお勧めします。

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◆ 参考・出典一覧
『The Future of IR: A Team of Tech-Empowered Specialists?』
IR Update 2019年秋号

気候変動に関する開示は部門を越えた協力が必須

▼ TCFDフレームワークの導入を推進
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英国FRC(財務報告評議会)は、企業は気候変動に関連する
報告について、より真剣に取り組む必要があると発表しました。
レポートでは、気候変動に関する情報開示を行う際に求められる点、
さらには、開示の改善に向けて企業が自問するべき内容を提示しています。

また、気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の
フレームワークを使用することを推奨しています。TCFDは2017年に
ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4つの分野に関する
フレームワークを発表しています。

このレポートでは、企業がTCFDフレームワークを導入する際に、
自問すべき質問を紹介しています。例えば、指標と目標に関しては
「気候変動による影響を監視および管理するにあたり、
最も必要な情報は何ですか?また、これらの情報をどのように特定し、
どのように戦略やビジネスモデルに結び付けますか?」という質問を
自問することを推奨しています。

▼ 部門を越えたシナリオプラニング
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また、気候変動が自らのビジネスに与える長期的な影響を
理解するにあたり、IRが他部門と協力し、シナリオプラニングを
行うことの重要性が指摘されています。

シナリオプラニングを行うためには、将来に関する徹底した評価、
さまざまな気候シナリオにおける企業のキードライバーを特定する
必要があります。このような分析には、戦略、財務、リスク、
レポーティング、総務、持続可能性、IR、取締役会など、分野や
部門を越えて協力する必要があります。

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◆ 参考・出典一覧
https://www.irmagazine.com/reporting/companies-urged-game-climate-disclosure
『Companies urged to up game on climate disclosure』
IR Magazine(2019年10月23日)