コロナパンデミック下でのIRプログラム

▼ 継続したコミュニケーションの重要性
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3月の終わりに、NIRI(全米IR協会)のメンバーを対象にしたウェビナー「Maintaining an Effective IR Program through the Covid-19 Pandemic(コロナパンデミック下で効果的なIRプログラムを維持する)」
が開催され、誰も経験のしたことのない状況下でのIRの在り方が議論されました。

今年の初頭まで、IROが提供する情報は、自社がこの1年でどのように成長していくかが中心でした。しかし、コロナの影響で話題は大きく変わりました。
今では、流動性(現金化のしやすさ)、コベナンツ(社債発行や融資に関連する特約事項違反)が発生する可能性、
回転信用枠からの資金引き出し、製品の出荷停止、店舗の閉鎖などについて説明を求められています。

一部の企業では、投資家との対話を止めてしまっていますが、このような状況下であるからこそ、投資家とのコミュニケーションが平常時以上に重要になってきます。
発信するメッセージは、必ずしもポジティブである必要はありませんが、公正で適切な情報であることが重要です。
特に中小企業に関しては、対話する姿勢を示すことが何よりも大切になります。

企業側とて、すべての答えを持ち合わせているわけではありません。
投資家が何を知りたくて説明してほしいと考えているのか、何が投資家の意思決定の助けになるのかなどを学び、開示プロセスに反映します。
投資家に情報を提供するだけではなく、耳を傾けることも重要となります。

▼ 潜在株主へリーチする
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既存の株主はもちろんですが、株を購入するタイミングを見計らっている潜在株主に向けたコミュニケーションも大切です。
今までの当たり前が当たり前でなくなるような状況に私たちは置かれています。
過去に株価が適切ではないと感じていた投資家が、適正価格で購入できるチャンスであると考える可能性があります。
特に、今後株主ベースが変化すると考えている場合は、潜在株主とのエンゲージメントが必要不可欠となります。

▼ 投資家が知りたがるポイント
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専門家は投資家が求めている重要なポイントとして、次の5つを挙げています。
1)(コロナパンデミック下の)現在の事業環境により、どのような影響を受けているか
2)自社のビジネスにおいて特に厳しい部分はどこか
3)いま社会が置かれている状況に対してどのようなソリューションを提供できるのか
4)ビジネスモデル上で利益をもたらしているポイントはどこか?ビジネスモデルを変革させることができるのか?
5)キャッシュフロ―、コベナンツ、流動性についての詳しい説明

▼ 基本を忘れない
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危機の時こそ、IRの基本をしっかりと実行することが大切であると専門家は指摘します。
在宅勤務中も、アクティビストがいなくなったり、ESGが必要なくなったりすることはありません。
自社の弱点の洗い出し、アクティビストへの備え、ESGプログラムを強化するなど基本的な分野を忘れないことが重要となります。

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◆ 参考・出典一覧
『How to Run an IR Program Through the COVID-19 Pandemic』
IR Update 2020年春号

コロナ時代のインパクト投資

コロナウイルスによる影響により世界的な不況となっています。
コロナによる影響を受けた国が仕事やバリューチェーンを復興させながら、社会的不平等に立ち向かい、
環境にやさしい社会として生まれ変わるためには、莫大な金額が必要になります。
この状況は投資家にとって大きなチャンスでもあります。
持続的かつあらゆるステークホルダーに利益をもたらす長期的な成長を実現させるためのプロジェクトへの投資、
イノベーションを実現させるための投資に注目が集まっています。
このような投資はインパクト投資と呼ばれます。

インパクト投資に対する関心は近年高まっており、コロナをきっかけに更にその傾向は高まっています。
1年前、資産運用会社および機関投資家60組織が「インパクト投資の運用原則」に署名しました。
この運用原則では、金銭的なリターンを得るのみならず社会にポジティブな影響を与える投資を運用するための明確な基準を定めています。
現在では、採択機関の数は世界26か国94組織までに成長しています。
コロナウイルスが世界経済に影響を与え始めた2020年の1月以降に署名した組織数は16組織にのぼります。
今年の夏までには、気候変動、ジェンダー平等、雇用創出を測定および報告する方法が合意に至ると考えられています。

かつては、小規模でインパクト投資に特化した投資家のみが行っていた投資ですが、より多様で大規模なプライベート・エクイティ・ファンドが実施しています。
「インパクト投資の運用原則」に署名している全組織のインパクト投資運用資産は3,000億ドルとなっています。

ブラックロック社を含む世界大手の運用会社も、「インパクト投資の運用原則」に署名し、
インパクト投資ファンドを立ち上げており、その規模はかつてないものになっています。

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◆ 参考・出典一覧
『Impact investing in the time of COVID-19』 Responsible Investor 2020年5月6日
https://www.responsible-investor.com/articles/impact-investing-in-the-time-of-covid-19

ESGファンドが選ばれる傾向

▼ 求められる能動的な情報開示
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持続可能な投資や責任ある投資は、この10年で大きく発展しました。投資家、株主、政府機関、格付け会社などが、
ESG(環境、社会、ガバナンス)に関する企業の情報の開示を求めるようになりました。
また、ESGに関する情報は競争戦略の一部になっています。

大手運用会社ニューバーガー・バーマンでは、ESGに関する問い合わせは2015年では全体の5%だったものが、昨年では50%近くまで増えたとしています。
ESGは「企業に持続可能性があるかどうか」を判断する以上の意味を持ち始めています。

モーニングスター格付が同じで、ESGファンドとESGではないファンドが存在する場合、多くの投資家がESGファンドを選ぶと言われています。
投資家は、ESGに関する意識が高く情報を開示している企業の方が、投資において安全かつリスクが低いと考えるようになってきています。

▼ ESG格付け会社の台頭
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このような状況に伴い、ESG格付け会社も台頭してきています。
ESG格付け会社では、企業の持続可能性パフォーマンスを独自のリサーチを基に格付けしており、
企業、マーケット、学会などが、企業の持続可能性を評価するにあたり活用しています。

ESG格付け会社の数が増える中、IROはどの格付け会社に注目し、どのように発信されるデータを追跡するべきでしょうか。
専門家は、IROが自社の大口投資家にESGデータをどの格付け会社から取得しているのかを確認したり、
IRやガバナンスチームにどのような質問が寄せられるかを注視したりすることで、注目すべき点が見えてくると指摘します。

MSCIやSustainalyticsなどの有力なESG格付け会社では、自社で格付けした会社に対し、無料でレポートを公開しています。
第一歩として、このレポートを入手し、掲載されている情報に間違いがないかを確認することができます。
アップデートされていない古い情報が掲載されている可能性もあります。

レポートを参考に自社のESGの中でも特に弱い部分について社内で話し合い、対策を考えることも可能です。
必要な対策は、的確な情報を開示するというような、すぐに実施できる場合も多くあります。
ただし、格付け会社は自社が発表した情報に誤りがあると判断した場合に修正を行いますが、時間がかかることが多くあります。
そのため、情報が間違っていたことを証明して、投資家に対して自ら情報発信することが大切です。

▼ ストーリーは自分で発信する
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格付け会社は開示されている情報に基づきESG格付けを行っています。
情報が開示されていない場合、開示していないという事実がマイナスになってしまいます。
情報開示をすることが企業にとって一番の得策であると専門家は考えます。
どのようなESG問題を重要であると考えているのか、その問題によってどのような影響を受ける可能性があるのか、
またそれを回避あるいは緩和させるためにどのような取り組みを導入しているのか、などの情報が求められています。
投資家は、自分が求めている情報を企業サイトから見つけることができない場合、他の情報源から情報を得ようとします。
自社のストーリーは自社から発信しないと、推測に基づく情報から投資判断が行われてしまい、リスクが高くなってしまいます。

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◆ 参考・出典一覧
『ESG Rating Agencies Are Here to Stay』 IR Update 2020年冬号