アメリカ式、IR情報の掲載方法
関連情報を絡めたカレンダー型方式が主流

日本企業のウェブサイトのIR情報には、決算短信、投資家との電話会議、よくある質問などが主に掲載されています。アメリカの企業ではどのような資料を発表しているのでしょうか。

近年、多くの米国企業がカレンダー型方式を活用してIR情報を掲載しています。この方式では、IR情報のセクションの下の「イベント」または「イベントおよびプレゼンテーション」というヘッダの下にさまざまなイベントが時系列に沿ってシンプルなスタイルで掲載されています。クリックすると関連情報へのリンクがシンプルに並べられています。投資家は過去、現在、未来の業績を簡単に見つけることができます。

またカレンダー型方式では、文書、動画、音声、静止画などさまざまなIR情報を紐づけて情報提示することができます。該当情報がPDFである場合は、その旨を明示するなど、読み手の利便性についてよく考えられています。

具体的に、世界トップのエンターテイメント企業ディズニー社と小売業ウォルマート社の例を見ていきましょう。

ディズニー社の決算報告ウェブキャスト

ディズニー社は、IRページの「イベントとプレゼンテーション」のヘッダ下にカレンダー型方式でIR情報を掲載しています。

今後発表予定の四半期業績についての予告、過去のリリース、インベスターデータなどが時系列順に並べられています。

例えば、2020年第4四半期の業績は、Investor Relations – EVENTS AND PRESENTATIONS下の「Disney’s Fiscal Full Year and Q4 2020 Earnings Results Webcast」(ディズニー社2020年度および第4四半期決算報告ウェブキャスト)のコラムをクリックすると、すぐに音声が再生できるようになっています。また、同じページに、関連情報である

・決算短信
・決算調整(非GAAPからGAAPへ)
・音声(MP3 ファイル)
・音声のトランスクリプト

などが同じセクションからダウンロードできるようになっています。

https://thewaltdisneycompany.com/investor-relations/#events
https://thewaltdisneycompany.com/disneys-fiscal-full-year-and-q4-2020-earnings-results-webcast/

ウォルマート社

ウォルマート社も、「イベント」ヘッダの下で同様にカレンダー方式をつかってイベントを掲載しています。また、5四半期先までのリリースの予告も掲載しています。

各イベント項目には、情報が公開される日付と時間が掲載されており、カレンダーアプリへの入力もクリックひとつでできるようになっています。また、「四半期報告の資料は、発表日の午前6時に閲覧できるようになります」といった、簡単なメッセージなどが記載されています。

https://corporate.walmart.com/newsroom/financial-events

アニュアルレポートのCEOメッセージ(Letter from the CEO)のベストプラクティス

過去と未来のバランスで関係性を高める

激動の2020年も終わり、年末には仕事面と個人面から激動の一年を振り返るチャンスが多くあったのではないでしょうか。過去を振り返って未来に思いを馳せていることは、より良い明日を作り出すチャンスでもあります。

これは、アニュアルレポートに掲載されるCEOメッセージにも当てはまります。ステークホルダーの利益を第一に考え、前年を振り返り、未来について語ることで、より良い関係性を作り出すことにつながります。

CEOメッセージの役割は、企業について、企業のパフォーマンス、経営陣の意思決定プロセスなどを株主が深く理解できるようにすることです。しかし、実際には、多くのCEOメッセージではこれを実現できていません。よく見逃されているポイントと、より良い挨拶を実現するためのポイントを紹介していきましょう。

CEOメッセージによくみられる欠点

•バランスが取れていない
成功ばかりを強調し失敗を説明しないため、単なるプロモーションに見えてしまいます

•冗長
CEOならではの、独自で価値ある視点を加えず、すでに発表された簡単にアクセスできる財務成績をまとめているだけの場合

•過去を振り返っていない
過去に定めた目標とそれに対する達成度をしっかりとレビューせずに、将来のゴールばかり語る場合

•誰かを責める
企業内の問題の原因を外部の環境としてしまう場合

CEOメッセージのベストプラクティス

失敗から成功の秘訣を学ぶことができます。優れたCEOメッセージのポイントは次のようになります。

•ステークホルダーは誰か
読み手はあなたの事業を深く理解したいと考えているパートナーであると考えましょう。マーケティングの対象である潜在顧客(または攻撃をしかけてくるアクティビスト)として扱うのはお勧めしません。

•バランスの取れた視点
前年度にうまくいった点、うまくいかなかった点の両方について説明します。

•コンテクスト
重要な業績指標を紹介する際に、その業績指標が自社の戦略とゴールにどのように関連しているか、コンテクストを説明します。

•プロセスを重視
経営陣が意思決定に使用しているプロセスを自分の体験として紹介します。

•文化
企業文化など財務情報以外の定性情報に関して端的に紹介します。

CEOメッセージの大切な役割

CEOメッセージがどんなに優れていても、それだけでは企業が素晴らしいわけでも、投資する価値があることでもありません。その逆も同様で、優れた投資先となる企業のCEOメッセージが素晴らしいとは限りません。

しかし、優れたCEOメッセージは大切な役割を果たします。ステークホルダーを理解している、自信と謙虚さのバランスをもったCEOは投資家から歓迎されます。優れたメッセーは、リーダーに適した性質をもったCEOがトップであることを投資家に示すことができます。

新型コロナウイルスでバーチャルIRが定着

不透明な経済と急激なオンラインへの移行

新型コロナウイルスのパンデミックによって、経済活動の行方が不透明となり、投資家はタイムリーかつ効果的なコミュニケーションを今まで以上に強く求めました。対面コミュニケーションが制限され、企業と投資家のコミュニケーションはオンラインに移行せざるをえませんでした。

パンデミックがバーチャルIRの実験の場に

多くの米国企業はコロナ前からオンライン上での業績発表や株主総会の実施の可能性を探っていました。そこに、パンデミックが起こったため、バーチャルへの移行が加速しました。結果、オンライン化のメリットが明らかになり、またその数値化もできるようになりました。パンデミックが去った後も、バーチャルスペースは新しいノーマルとして引き続き活用され、成長していくと考えられています。

対面ロードショーの課題

というのも、従来対面で行われていたロードショーでは、CEOやCFO、IRチームのメンバーが参加するために、高額の予算と機会費用が費やされていました。そのため、予算、時間、地理的な制限があり、費用対効果を最適化するために米国の大都市のみで行われるケースが多くなっています。

同時に、米国の大都市以外や米国外の潜在的な投資家やステークホルダーを掬い上げることができないという課題がありました。また、ロードショーを対面で行わなければその莫大な予算を戦略予算として費やすことができます。

関係性を築くためにはバーチャルよりも対面

もちろん、オンラインにも限界があります。多くの企業では、業績発表や株主総会のバーチャル化に積極的です。しかし、掘り下げた会話で関係性を築くチャンスであるインベスターデー(日本でいう投資家説明会)、 カンファレンス、ノンディールロードショーは画面越しよりも対面の方が有効であると考えられています。ただ、バーチャルIRの経験値が上がれば、この傾向も変わる可能性はあります。