個人投資家の増加でプレイン・イングリッシュにさらに注目

コロナと環境の整備が増加の後押し

2020年、米国では個人投資家の数が大きく増えました。新型コロナウイルスにより株価が下落したことが逆にチャンスとなったこと、ロックダウンで可処分時間が増えたことなどが大きなきっかけだと考えられています。手数料が低く使いやすい証券取引プラットフォームサービスの普及やさまざまな証券商品が投入されたことにより、個人での株取引が簡単になったこともブームを後押ししています。

ジェネレーションI

米国の証券会社チャールズ・シュワブ社では、世代を問わず、2020年に投資を始めた人たちをジェネレーションI(generation investor)と呼んでいます。ジェネレーションIは、投資を始めた2020年は短期的な投資を目的としていましたが、2021年に入り長期的な投資にシフトしていると言われています。

プレイン・イングリッシュを活用した情報提供

米国の証券取引所でも、増加する個人投資家に対応し始めています。例えば、ナスダックでは、見やすく、使いやすいデザインを使った個人投資家向けの情報サイトを2020年に作っています。投資を始めるにあたり役立つコンセプトを、初心者にも伝わるようにシンプルな例を使ってわかりやすく説明しています。

また、個人投資家から人気の高い企業では、IRサイトの対応も進んでいます。例えば、大手デパートのターゲット社のIRサイトではフォント、言葉、チャートを駆使した個人投資家にも使いやすいIRサイトを作っています。

個人投資家は、プレイン・イングリッシュを活用した読みやすく整理された投資情報を必要としています。

日本でも、米国と機を同じくして長期投資をする個人投資家が世代を問わず増えています。
言葉とデザインの両方の面でプレイン・イングリッシュを活用したIRサイトが今まで以上に求められる時代になってきています。

IR資料でマクロ経済情報を活用する
定型文ではなく有益な情報として掲載

日本では、決算短信などのIR資料で経済状況を説明する際、同じ表現が何年も使われていることがよくあります。CSR・PR専門家レベッカ・レオナルド氏は、同じコンテンツを何年も繰り返して使っているレポートは通用しなくなっていると指摘しています。投資家は、マクロ経済がどのように企業のストーリーに影響を与えているのかを知りたがっています。

マクロ経済をより有益な情報として活用するための原則が3つあります。

  1. 業績を説明する際に役立つ場合にのみ掲載します。
  2. 業績を説明する流れに沿った場所に掲載します。毎回同じ段落の同じ場所に掲載する必要はありません。
  3. 同じ状況のマクロ経済が同じ結果をもたらすとは限りません。他の要因との関係性を説明します。

アメリカ企業のベストプラクティス

ご参考までにいくつかのベストプラクティスを紹介していきましょう。どの例でも、2019年と2020年に掲載されている情報が大きく異なっています。

スターバックス社

株主への手紙の2019年度と2020年度を比較してみると、掲載されている内容が大きく異なっています。2019年度では、全体的な経済についてはほとんど触れられていませんが、新型コロナウイルスによって経済状況が企業の活動に大きく影響を与えた2020年度では、世界的な経済状況があらゆるトピックスの中心となっています。

サウスウエスト航空

2020年の決算リリースでは、CEOが経済状況を歴史的な視点から説明しています。また経済状況による影響とそれに対する同社の対応を説明しています。前年度の情報を流用したのではなく、今年に何が起こっているのかを新たに説明しています。

自社のビジネスと経済の関係を、フォーカスを絞って丁寧に説明することで企業の「今」を伝えることができるレポートであることが特徴です。

米国と日本の株主総会招集通知の違い

convocation noticeは古い英語?

株主総会招集通知の季節が近づいてきました。株主総会が行われる季節は違いますが、米国にも株主総会招集通知は存在します。

日本企業の招集通知はconvocation noticeとして翻訳されることが多くなっていますが、米国ではnotice of annual meeting of shareholders and proxy statement(株主総会のお知らせとプロキシーステートメント)、Notice of 20xx Annual Shareholders’ Meeting(20xx年株主総会のお知らせ)などという表現が使われます。

convocation noticeという言葉はかつては米国でも使用されていました。しかし、プレイン・イングリッシュを使ったわかりやすいコミュケーションツールへと招集通知が進化するにつれ、使われなくなりました。

ちなみに、proxy statement(プロキシーステートメント)は日本の招集通知の株主総会参考書類にあたる部分に似ていて、総会当日に投票される議題などが記載された公開が義務付けられた書類です。

米国の招集通知を参考に英語版を改善する

米国の株主総会招集通知は、読みやすい文書となるように進化を続けています。日本の招集通知と比較して特に目立つ特徴として、次のような点があります。

・写真、余白、図、箇条書き、色を活用した魅力的で読みやすいビジュアル
・ハイパーリンクを使用し、文書内の関連セクションへの移動が簡単
・株主への挨拶は、フォーマルなスタイルではなくて、個人的な語り口を使って株主に語り掛ける

日本の招集通知の英語版を作成する際には、次のような点に注意すると、よりグローバルに伝わる読みやすい文書を作ることができます。

・かたい言葉遣いに気を付ける
・情報の詰め込みすぎに気を付ける
・読みやすいデザインを心がける
・新しい情報や投資家の興味を引く知見を掲載する

実は、招集通知の英語版作成のポイントはアニュアルレポート英語版作成のポイントと非常に似ています。どちらも投資家にとって読みやすく役立つ情報が含まれている文書とすることが重要です。もちろん、プレイン・イングリッシュを使うことも忘れないようにしましょう。

参考) 米国大手企業の招集通知の例 ウォルマート https://s2.q4cdn.com/056532643/files/doc_financials/2019/annual/348234(1)_20_Walmart_NPS_WR.pdf

スターバックス https://s22.q4cdn.com/869488222/files/doc_financials/2020/ar/SBUX-2021-Proxy-Statement.pdf