コロナがもたらしたIRへの変化3選
パンデミックが与えた前向きな影響を考える

ここ15か月間、新型コロナウイルスパンデミックを通じて、私たちは人間として企業として、大きな課題に向き合ってきました。私たち誰もが、必要に迫られて多くのことを変えてきました。

米国では新型コロナウイルスに関する規制が少しずつ緩和されてきており、外出する人も増えてきました。今回のパンデミックで自分たちが何を学んだのか、立ち止まって考える人も多くいるのではないでしょうか。

必要に迫られて起こった変化が、未来に与える影響を考える時期でもあります。IRの世界では、次の3つの変化が今後も続いていくと考えられています。

1. ポートフォリオマネージャーの存在感

従来、アナリストと比べてポートフォリオマネージャーは出張が少なく、IR関連のミーティングやカンファレンスにあまり参加してきませんでした。新型コロナウイルスの影響で、多くのカンファレンスがオンライン化されたことで、ポートフォリオマネージャーの出席が急増しました。株式の売買の最終決定を行うポートフォリオマネージャーがIR関連のカンファレンスに参加するようになったのは良い傾向であると言えます。

2. デジタル化の促進

自宅勤務の人が増え、オンラインでの仕事も急増しました。企業は、短期間の間に効果的にデジタル化を進める必要に迫られてきました。オンラインで行う投資家向けの収支報告の質の向上、ユーザーインターフェースの改善、より速いデータ処理などがデジタル化を進めるうえで必要不可欠になっています。

3. ダイバーシティとインクルージョン(D&I)

パンデミックを通じて、多くの社会的課題が浮き彫りになりました。今まで以上に、内部と外部の両方でダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包括性)が企業の成長のカギとなります。パンデミック中、ESGに関しての情報をより多く提供するようにIR担当者は注力してきました。中でも、人材に関する取り組み、多様性、インクルージョン、従業員の健康と安全、パンデミックに対応するための従業員への金銭的サポートが大きく注目されました。これは、パンデミック後も、引き続き重要事項として注目を集めると考えられています。2010年代、投資家は気候変動に大きく注目しました。2020年代、投資家の目はD&Iに注がれると考えられています。

個人投資家の増加でプレイン・イングリッシュにさらに注目

コロナと環境の整備が増加の後押し

2020年、米国では個人投資家の数が大きく増えました。新型コロナウイルスにより株価が下落したことが逆にチャンスとなったこと、ロックダウンで可処分時間が増えたことなどが大きなきっかけだと考えられています。手数料が低く使いやすい証券取引プラットフォームサービスの普及やさまざまな証券商品が投入されたことにより、個人での株取引が簡単になったこともブームを後押ししています。

ジェネレーションI

米国の証券会社チャールズ・シュワブ社では、世代を問わず、2020年に投資を始めた人たちをジェネレーションI(generation investor)と呼んでいます。ジェネレーションIは、投資を始めた2020年は短期的な投資を目的としていましたが、2021年に入り長期的な投資にシフトしていると言われています。

プレイン・イングリッシュを活用した情報提供

米国の証券取引所でも、増加する個人投資家に対応し始めています。例えば、ナスダックでは、見やすく、使いやすいデザインを使った個人投資家向けの情報サイトを2020年に作っています。投資を始めるにあたり役立つコンセプトを、初心者にも伝わるようにシンプルな例を使ってわかりやすく説明しています。

また、個人投資家から人気の高い企業では、IRサイトの対応も進んでいます。例えば、大手デパートのターゲット社のIRサイトではフォント、言葉、チャートを駆使した個人投資家にも使いやすいIRサイトを作っています。

個人投資家は、プレイン・イングリッシュを活用した読みやすく整理された投資情報を必要としています。

日本でも、米国と機を同じくして長期投資をする個人投資家が世代を問わず増えています。
言葉とデザインの両方の面でプレイン・イングリッシュを活用したIRサイトが今まで以上に求められる時代になってきています。

IR資料でマクロ経済情報を活用する
定型文ではなく有益な情報として掲載

日本では、決算短信などのIR資料で経済状況を説明する際、同じ表現が何年も使われていることがよくあります。CSR・PR専門家レベッカ・レオナルド氏は、同じコンテンツを何年も繰り返して使っているレポートは通用しなくなっていると指摘しています。投資家は、マクロ経済がどのように企業のストーリーに影響を与えているのかを知りたがっています。

マクロ経済をより有益な情報として活用するための原則が3つあります。

  1. 業績を説明する際に役立つ場合にのみ掲載します。
  2. 業績を説明する流れに沿った場所に掲載します。毎回同じ段落の同じ場所に掲載する必要はありません。
  3. 同じ状況のマクロ経済が同じ結果をもたらすとは限りません。他の要因との関係性を説明します。

アメリカ企業のベストプラクティス

ご参考までにいくつかのベストプラクティスを紹介していきましょう。どの例でも、2019年と2020年に掲載されている情報が大きく異なっています。

スターバックス社

株主への手紙の2019年度と2020年度を比較してみると、掲載されている内容が大きく異なっています。2019年度では、全体的な経済についてはほとんど触れられていませんが、新型コロナウイルスによって経済状況が企業の活動に大きく影響を与えた2020年度では、世界的な経済状況があらゆるトピックスの中心となっています。

サウスウエスト航空

2020年の決算リリースでは、CEOが経済状況を歴史的な視点から説明しています。また経済状況による影響とそれに対する同社の対応を説明しています。前年度の情報を流用したのではなく、今年に何が起こっているのかを新たに説明しています。

自社のビジネスと経済の関係を、フォーカスを絞って丁寧に説明することで企業の「今」を伝えることができるレポートであることが特徴です。