IR資料でマクロ経済情報を活用する
定型文ではなく有益な情報として掲載

日本では、決算短信などのIR資料で経済状況を説明する際、同じ表現が何年も使われていることがよくあります。CSR・PR専門家レベッカ・レオナルド氏は、同じコンテンツを何年も繰り返して使っているレポートは通用しなくなっていると指摘しています。投資家は、マクロ経済がどのように企業のストーリーに影響を与えているのかを知りたがっています。

マクロ経済をより有益な情報として活用するための原則が3つあります。

  1. 業績を説明する際に役立つ場合にのみ掲載します。
  2. 業績を説明する流れに沿った場所に掲載します。毎回同じ段落の同じ場所に掲載する必要はありません。
  3. 同じ状況のマクロ経済が同じ結果をもたらすとは限りません。他の要因との関係性を説明します。

アメリカ企業のベストプラクティス

ご参考までにいくつかのベストプラクティスを紹介していきましょう。どの例でも、2019年と2020年に掲載されている情報が大きく異なっています。

スターバックス社

株主への手紙の2019年度と2020年度を比較してみると、掲載されている内容が大きく異なっています。2019年度では、全体的な経済についてはほとんど触れられていませんが、新型コロナウイルスによって経済状況が企業の活動に大きく影響を与えた2020年度では、世界的な経済状況があらゆるトピックスの中心となっています。

サウスウエスト航空

2020年の決算リリースでは、CEOが経済状況を歴史的な視点から説明しています。また経済状況による影響とそれに対する同社の対応を説明しています。前年度の情報を流用したのではなく、今年に何が起こっているのかを新たに説明しています。

自社のビジネスと経済の関係を、フォーカスを絞って丁寧に説明することで企業の「今」を伝えることができるレポートであることが特徴です。

米国と日本の株主総会招集通知の違い

convocation noticeは古い英語?

株主総会招集通知の季節が近づいてきました。株主総会が行われる季節は違いますが、米国にも株主総会招集通知は存在します。

日本企業の招集通知はconvocation noticeとして翻訳されることが多くなっていますが、米国ではnotice of annual meeting of shareholders and proxy statement(株主総会のお知らせとプロキシーステートメント)、Notice of 20xx Annual Shareholders’ Meeting(20xx年株主総会のお知らせ)などという表現が使われます。

convocation noticeという言葉はかつては米国でも使用されていました。しかし、プレイン・イングリッシュを使ったわかりやすいコミュケーションツールへと招集通知が進化するにつれ、使われなくなりました。

ちなみに、proxy statement(プロキシーステートメント)は日本の招集通知の株主総会参考書類にあたる部分に似ていて、総会当日に投票される議題などが記載された公開が義務付けられた書類です。

米国の招集通知を参考に英語版を改善する

米国の株主総会招集通知は、読みやすい文書となるように進化を続けています。日本の招集通知と比較して特に目立つ特徴として、次のような点があります。

・写真、余白、図、箇条書き、色を活用した魅力的で読みやすいビジュアル
・ハイパーリンクを使用し、文書内の関連セクションへの移動が簡単
・株主への挨拶は、フォーマルなスタイルではなくて、個人的な語り口を使って株主に語り掛ける

日本の招集通知の英語版を作成する際には、次のような点に注意すると、よりグローバルに伝わる読みやすい文書を作ることができます。

・かたい言葉遣いに気を付ける
・情報の詰め込みすぎに気を付ける
・読みやすいデザインを心がける
・新しい情報や投資家の興味を引く知見を掲載する

実は、招集通知の英語版作成のポイントはアニュアルレポート英語版作成のポイントと非常に似ています。どちらも投資家にとって読みやすく役立つ情報が含まれている文書とすることが重要です。もちろん、プレイン・イングリッシュを使うことも忘れないようにしましょう。

参考) 米国大手企業の招集通知の例 ウォルマート https://s2.q4cdn.com/056532643/files/doc_financials/2019/annual/348234(1)_20_Walmart_NPS_WR.pdf

スターバックス https://s22.q4cdn.com/869488222/files/doc_financials/2020/ar/SBUX-2021-Proxy-Statement.pdf

アメリカ式、IR情報の掲載方法
関連情報を絡めたカレンダー型方式が主流

日本企業のウェブサイトのIR情報には、決算短信、投資家との電話会議、よくある質問などが主に掲載されています。アメリカの企業ではどのような資料を発表しているのでしょうか。

近年、多くの米国企業がカレンダー型方式を活用してIR情報を掲載しています。この方式では、IR情報のセクションの下の「イベント」または「イベントおよびプレゼンテーション」というヘッダの下にさまざまなイベントが時系列に沿ってシンプルなスタイルで掲載されています。クリックすると関連情報へのリンクがシンプルに並べられています。投資家は過去、現在、未来の業績を簡単に見つけることができます。

またカレンダー型方式では、文書、動画、音声、静止画などさまざまなIR情報を紐づけて情報提示することができます。該当情報がPDFである場合は、その旨を明示するなど、読み手の利便性についてよく考えられています。

具体的に、世界トップのエンターテイメント企業ディズニー社と小売業ウォルマート社の例を見ていきましょう。

ディズニー社の決算報告ウェブキャスト

ディズニー社は、IRページの「イベントとプレゼンテーション」のヘッダ下にカレンダー型方式でIR情報を掲載しています。

今後発表予定の四半期業績についての予告、過去のリリース、インベスターデータなどが時系列順に並べられています。

例えば、2020年第4四半期の業績は、Investor Relations – EVENTS AND PRESENTATIONS下の「Disney’s Fiscal Full Year and Q4 2020 Earnings Results Webcast」(ディズニー社2020年度および第4四半期決算報告ウェブキャスト)のコラムをクリックすると、すぐに音声が再生できるようになっています。また、同じページに、関連情報である

・決算短信
・決算調整(非GAAPからGAAPへ)
・音声(MP3 ファイル)
・音声のトランスクリプト

などが同じセクションからダウンロードできるようになっています。

https://thewaltdisneycompany.com/investor-relations/#events
https://thewaltdisneycompany.com/disneys-fiscal-full-year-and-q4-2020-earnings-results-webcast/

ウォルマート社

ウォルマート社も、「イベント」ヘッダの下で同様にカレンダー方式をつかってイベントを掲載しています。また、5四半期先までのリリースの予告も掲載しています。

各イベント項目には、情報が公開される日付と時間が掲載されており、カレンダーアプリへの入力もクリックひとつでできるようになっています。また、「四半期報告の資料は、発表日の午前6時に閲覧できるようになります」といった、簡単なメッセージなどが記載されています。

https://corporate.walmart.com/newsroom/financial-events