ESG開示:情報量の多さが株価に悪影響?!

格付け機関の間での評価のばらつきが課題

ESG開示では、「多くの情報を開示することが良い」とされてきました。より多くの情報を提供することで、企業のESG活動に関する理解が深まり、株価も安定するという考え方です。

しかし、新しい調査で、開示情報の多さが逆効果になることがわかりました。情報量が多いほど、複数の格付け機関の間での意見の食い違いが大きくなり、株価の変動が予測不能になってしまうのです。

評価の不一致を起こす3つの原因

このような現象が起きる原因は以下のように3つあります。

・ESG投資が比較的新しいものであること。この現象は、取引所でESG開示要件が導入された直後に特に目立っています。

・投資資産として注目度が高い、成長過程の分野であること。

・格付け機関の評価に、主観や不確実性、予測が含まれること。これは、ESGが行動と結果の時間差が大きい分野であり、現在行われている取り組みの結果が出るのは、数年あるいは何十年も先となることに原因があります。

つまり、関心の高さ、不確実さ、新しい取り組みという3つの要素が組み合わさり、格付け機関による評価の不一致と不安定な株価が起きていると考えられます。

評価基準が確立されるまでに企業にできること

このような状況を解決するべく、評価基準の確立に向けた動きが活発になっています。共通の基準が確立されると、格付け機関の間での評価差が縮まり、株価への悪影響も減少します。

全体的な傾向として、格付け機関は能動的な活動を評価しています。そのため、能動的に取り組んでいる活動内容を開示することが求められています。ポリシーなど行動を伴わない情報の開示は、評価が分かれやすくなってしまいます。

また、読み手に誤解を与えないプレイン・イングリッシュで、より質の高い情報を提供することも重要な役割を果たしていきます。

ポストコロナのESG
ダイバーシティ&インクルージョンの時代へ

ESGが企業としての成功に大切であるという考え方は広く浸透しています。現在、S&P 500社の90%がアニュアルレポートなどでESGを重点的に報告しています。

ESGのなかでも今欧米で特に注目され、今後さらにその重要度を増してくると考えられているのがS(社会)に含まれる、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)やDEI(ダイバーシティ、イコーリティー、インクルージョン)です。

新しいコンセプトを理解するための問い

ダイバーシティ、イコーリティー、インクルージョンは、簡単に説明できるコンセプトではありません。正確に伝えることができる日本語が存在しないため、翻訳する際にはカタカナで翻訳し注釈をつける方法が使われています。

この新しいコンセプトを理解するためには、次のような問いを立ててみることをお勧めします。

ダイバーシティを知るためには、「この部屋には誰がいますか?」という問いを立てます。様々なアイデンティティをもった異なる属性を代表する人が共存していることを大切にします。

イコーリティーを知るためには、「この部屋に入りたくても入れない人は誰ですか?」という問いを立てます。公正な扱い、機会の平等、リソースへの平等なアクセスなどを大切にします。

インクルージョンを知るためには、「全員の意見に耳を傾けましたか?」という問いを立てます。参加や貢献をしたすべての人に対して能動的に耳を傾けることを大切にします。

仕事に対する新しい考え方が根底に

D&IやDEIの根底に流れる考え方は、ひとりの人間としてアイデンティティを仕事に持ち込むことができるというものです。長い間、仕事ではプライベートのことは口にしなかったり、プロとしての自分以外は秘密にするスタイルが一般的でした。しかし、新しい考え方が台頭してきています。それは、全員が自分が受け入れられていると感じることができる環境で、人間として成長しながら関係を築くことが個人そして企業の成功には必要不可欠であるという考え方です。

この考え方はパンデミックを通じてその存在感を増してきています。

2010年代のテーマが気候変動であったように、2020年代のテーマはD&IやDEIになるであろうと考えられています。

コロナがもたらしたIRへの変化3選
パンデミックが与えた前向きな影響を考える

ここ15か月間、新型コロナウイルスパンデミックを通じて、私たちは人間として企業として、大きな課題に向き合ってきました。私たち誰もが、必要に迫られて多くのことを変えてきました。

米国では新型コロナウイルスに関する規制が少しずつ緩和されてきており、外出する人も増えてきました。今回のパンデミックで自分たちが何を学んだのか、立ち止まって考える人も多くいるのではないでしょうか。

必要に迫られて起こった変化が、未来に与える影響を考える時期でもあります。IRの世界では、次の3つの変化が今後も続いていくと考えられています。

1. ポートフォリオマネージャーの存在感

従来、アナリストと比べてポートフォリオマネージャーは出張が少なく、IR関連のミーティングやカンファレンスにあまり参加してきませんでした。新型コロナウイルスの影響で、多くのカンファレンスがオンライン化されたことで、ポートフォリオマネージャーの出席が急増しました。株式の売買の最終決定を行うポートフォリオマネージャーがIR関連のカンファレンスに参加するようになったのは良い傾向であると言えます。

2. デジタル化の促進

自宅勤務の人が増え、オンラインでの仕事も急増しました。企業は、短期間の間に効果的にデジタル化を進める必要に迫られてきました。オンラインで行う投資家向けの収支報告の質の向上、ユーザーインターフェースの改善、より速いデータ処理などがデジタル化を進めるうえで必要不可欠になっています。

3. ダイバーシティとインクルージョン(D&I)

パンデミックを通じて、多くの社会的課題が浮き彫りになりました。今まで以上に、内部と外部の両方でダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包括性)が企業の成長のカギとなります。パンデミック中、ESGに関しての情報をより多く提供するようにIR担当者は注力してきました。中でも、人材に関する取り組み、多様性、インクルージョン、従業員の健康と安全、パンデミックに対応するための従業員への金銭的サポートが大きく注目されました。これは、パンデミック後も、引き続き重要事項として注目を集めると考えられています。2010年代、投資家は気候変動に大きく注目しました。2020年代、投資家の目はD&Iに注がれると考えられています。