リードする欧州に続く米国、遅れるアジア
2019年の時点でネットゼロに取り組んでいた企業は、全世界のGDPで換算すると16%に過ぎませんでしたが、現在では90%に達しています。多くの企業がネットゼロを意思決定プロセスの重要な一部として位置づけるようになっています。
ネットゼロへの取り組みは、短期的には企業の財政にとってマイナスとなります。研究開発費や設備投資額は増え、収益性や利益率が圧迫されることなどから、取り組みに躊躇していた企業も多くありました。しかし、気候変動、株主アクティビズムやステークホルダー資本主義の台頭、ウクライナ関連の地政学的な混乱などに後押しされ、長期的なリスクを減らし安定性を高めるためにもネットゼロが必要であることが理解されるようになりました。
ネットゼロへの取り組みがもっとも盛んなのがヨーロッパです。20%の企業が2030年までにネットゼロを達成することを目指しており、2050年までには96%の企業がネットゼロを実現する予定です。この数字はアジアではそれぞれ4%と58%、米国では10%と75%となっています。
スコープ3の開示率の低さが世界的な課題
二酸化炭素排出のカテゴリーであるスコープ1、スコープ2、スコープ3という言葉を耳にすることも多くなりました。
現在特に注目されているのが、企業のサプライチェーン全体を通じて排出される量を示すスコープ3です。ここでは、たとえば個人の通勤に関連する排出量や、販売した製品の使用に伴う排出量などが含まれます。スコープ3の排出量は、スコープ1と2の合計の数十倍規模になると言われています。
ただし、スコープ3の開示はスコープ1、2に比べるとまだまだ少ないです。ネットゼロを宣言しているラッセル1000の企業でも6%しか開示していないため、今後注目されていく分野といえます。
ステークホルダー資本主義がネットゼロを後押し
今後は、特に近年注目されているステークホルダー資本主義の台頭により、ネットゼロへの取り組みがさらに加速していくと考えられます。例えば、ステークホルダー資本主義が主流になることで、消費者は企業のネットゼロ戦略をサポートする製品に対してより多くのお金を払うようになったり、政府が減税や補助金などのインセンティブを付与したり、株主がネットゼロの先発者や革新者により高い評価を与えるようになると考えられます。