株主招集通知におけるESG開示、大幅に進化

専門家によると過去3年の間に、株主総会招集通知における
ESG開示は大きく進化してきました。
企業はESG関連のさまざまな課題に直面しており、
その重要度もさまざまです。
しかし、全体として株主総会招集通知におけるESGセクションは
毎年拡大しており、充実してきています。
株主総会招集通知におけるESG開示の進化の過程としては、
次のプロセスをたどっています。
1年目:「ESG課題に注目しています」
2年目:「これが私たちのESGゴールです」
3年目:「ゴールに対する進捗はこのようになります」

また、取締役会のリスク監視、役員採用、株主エンゲージメント、
取締役会評価、報酬設定などの取締役会プロセスの開示においても
進化が見られます。企業はこれらのプロセスや、その仕組み、
結果を開示するようになっているほか、開示にあたってビジュアルを
有効活用するようになってきています。
このようなことを行っている企業はほんの数年前までわずか数社でしたが、
今では実施している企業は数十社となっています。
そのほか顕著な傾向として、CEOからのあいさつだけに留まらず
独立役員または独立取締役会長からのあいさつを記載する企業が
増えてきています。さらには、事業戦略と役員報酬の関係の詳細を
開示したり、取締役を身近に感じてもらうために
取締役の写真や個人的な情報を掲載したりするなど、
ESG開示の進化は進んでいます。

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◆ 参考・出典一覧
IR Magazine 2019年10月8日
『Report highlights evolving ESG disclosure in proxy statements』
https://www.irmagazine.com/reporting/report-highlights-evolving-esg-disclosure-proxy-statements

取締役、多様性への「注力疲れ」の傾向 多様性とESGが重視される傾向は変わらず

近年、多様性とESGに関する課題は投資家と取締役会の間で
重要課題として扱われてきました。PwCが行った調査によると、
取締役はその重要性を認めながらも、多様性やESGへの過度の
注力に疲れを見せていることがわかりました。その調査結果の
一部を紹介します。

多様性全体に関する見方は引き続きポジティブ
・取締役会の多様性が企業に新しい視点をもたらすと感じる(94%)
・取締役会の多様性が取締役会のパフォーマンスを向上させると感じる(87%)
・取締役会の多様性が投資家との関係を向上させると感じる(84%)
・取締役会の多様性が企業の業績を向上させると感じる(76%)

性別多様性と人種の多様性:過度の注力からの反動
・取締役の性別多様性は非常に重要である
(38%:昨年は46%)
・人種やエスニック多様性は非常に重要である
(26%:昨年は34%)
・投資家が性別多様性を重視しすぎていると感じる
(63%:昨年は35%)
・投資家が人種やエスニック多様性を重視しすぎていると感じる
(58%:昨年は33%)

ESGに関しても反動
ESGは、投資家が重視する課題となっており、2020年の
株主総会シーズンにおいても引き続き重要課題になると
考えられています。しかし、ESGに関しても、
高まるプレッシャーにより多くの役員に
反動が現れているようです。
・投資家が環境・持続可能性の課題を過度に
重視していると感じる(56%:昨年は29%)
・投資家がCSRを過度に重視していると感じる
(47%:昨年は29%)
専門家はこの原因について、本来議論するべき課題が
ESG関連のアクションを求める投資家の声に乗っ取られた
ように感じ始めているのではないかと指摘しています。
一方で、すでに社内で実施している取り組みをESGと
結びつけることができず、社内で混乱が生まれている
ケースもあり、より洗練されたコミュニケーション戦略の
必要性も指摘されています。
投資家とのエンゲージメントに関しては、
引き続きその重要性が広く認識されるようになってきています。

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◆ 参考・出典一覧
IR Magazine 2019年10月15日
『Directors tiring of diversity and ESG focus, survey finds』
https://www.irmagazine.com/esg/directors-tiring-diversity-and-esg-focus-survey-finds

財務報告書の進化とプレイン・イングリッシュ

プレイン・イングリッシュは、数年前には想像できなかった速さで
IRの世界に浸透しています。この背景には、投資家が財務報告書に
求めることが変わったことや、規制の変化があります。
数字だけではなく、その背景や計算方法を財務諸表上で
説明することが求められるようになったのです。
説明内容は得てして複雑で、表現する言葉も冗長になりがちです。
そんな内容を読者に伝わるように発信するには、
プレイン・イングリッシュを使って
わかりやすく表現することが必要不可欠です。

ここ数年、日本の会計原則でもキャッシュフロー計算書の
提出が義務付けられ、年金などのより複雑な勘定科目の
掲載も義務付けられるようになりました。
開示が進化し、複雑な事実に対する透明性が
より求められるようになったことで、開示内容に関する
説明やコメントを付け足す必要性も上がってきました。

このような背景の中、企業が数字を開示すれば投資家が
満足していたのは過去となり、今の投資家を満足させるには、
数字の背景となるストーリー、つまり、
開示している結果に至った理由を説明することが
求められるようになりました。

このニーズが生まれた背景には、
企業スキャンダルや、複雑な会計基準、企業が
運営する環境から生まれる外部リスクなどが
原因として考えられます。

さらに、財務指標が過去の状態を表す指標であると
認識されるようになり、投資家は将来を
予測するにあたり必要な、この先の業績を予測することが
できる指標を求めるようになりました。
そのため、非財務指標が活用されるようになってきています。
例えば、顧客満足率が下降傾向にあれば、
今までと同様の売上成長や利益率を維持することは
できなくなることが予測できます。

もし現実に未来の業績が危ぶまれるような状況に陥った場合に
大切になるのがコミュニケーションです。
企業が結果を受け止め、真摯な議論を行い、
その結果を開示することで、投資家が保有株式を
処分する可能性は少なくなります。
投資家の行動は開示される議論の内容によって、
変化するのです。

業績の背景にあるストーリーや理由、
非財務指標に関する議論の内容などを
世界の投資家に向けて発信するために
日本語から英語に翻訳する場合は、翻訳の質が
投資家に与える印象を大きく作用します。
このような状況でプレイン・イングリッシュが
非常に大切になります。