自然言語処理(NLP)を使用した業績発表分析

▼投資家やアナリストのセンチメント、業績以外も大きく影響
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HSBC社が、中国リスクの影響を大きく受ける米国と欧州の株式の評価
に関して調査を行いましたが、その調査方法が注目を集めています。
自然言語処理ソフトウェアを使用して、業績発表のスクリプトを分析する
というものです。対象となったのは、MSCI USAインデックスとMSCI
Europeインデックスに登録されている、中国リスクの影響が大きい
とされる、1000社を超える企業です。

2002年までさかのぼった業績発表の約6万件が対象となりました。
自然言語処理を使用することで、単に「何」を言っているのかではなく、
「どのように」表現しているかも含めて分析することができるように
なっています。

▼中国リスクに弱気な投資家
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分析の結果として、経営陣からの発表では、ほぼ常に業績に焦点が
当てられていることがわかりました。これは欧州に比べ、米国で
特に顕著でした。反対に、アナリスト側は業績のみならず、
マイナスのメディア報道など業績とは直接関係のない部分からも
多く影響を受けていることがわかりました。

また、中国リスクの影響を受ける株式は過小評価されており、
アナリストや投資家が中国リスクに関してネガティブな印象を
もっている企業ほど、株式が好調であることがわかりました。

過小評価される原因としては、通常は株式が好調となる要因である
経営陣の強気な発言も、アナリストや投資家側が弱気になっているため、
ポジティブな要素として十分に考慮されていないことにあります。

投資家が中国リスクの影響に過剰反応し、短期的な不安に影響を
受けていることとは反対に、企業側は全体図あるいは長期的な視点で
考えている、とも言えます。

▼その他の注目点
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・投資家のセンチメントは、業績だけではなく、
感情的な要素によっても大きく変わります
・自然言語処理により業績発表の内容は半永久的に分析対象
になります
・メディア、国際関係、地政学など企業の業績とは直接関係のない
 情報も、売上や為替変動と同じくらいの影響力があります
・アナリストは業績以外の他の多くの要素からも影響を受けているため、
センチメントのモニタリングを行い、何がどのように投資家に影響を
与えているのか追跡することも、IRの大切な役割です。

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◆参考・出典一覧

『Natural language processing for investors: The future is here』
IR Magazine 2019年2月1日
https://www.irmagazine.com/reporting/natural-language-processing-investors-future-here

2018年、全世界におけるアクティビスト活動のまとめ

Activist Insightと Schulte Roth & Zabelの調査により、
2018年にアクティビスト投資家のターゲットとなった企業の数は
全世界で922社であったことがわかりました。
調査結果の詳細は以下のようになっています。
・2017年、ターゲットとなった企業の数は全世界で856社
(2018年は66社増)
・2018年にターゲットとなった922社のうち、米国企業以外が417社
・アジア企業がターゲットになるケースが増加。2017年の93社に比べ、
2018年は20%増の111社
・ヨーロッパ企業は148社(6%減)にとどまり、アクティビズムが
減少した唯一の地域
・カナダ企業は75社(30%増)
・オーストラリア企業は78社(28%増)

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◆参考・出典一覧
『Activist investors targeted 922 companies in 2018, report highlights』
IR Magazine 2019年2月7日
https://www.irmagazine.com/activism/activist-investors-targeted-922-companies-2018-report-highlights

KISSの原則:複雑なシステムVSシンプルなシステム 優れたパフォーマンスを発揮するのはどちら?

KISSの原則は、1960年代に戦闘機を設計した際の教訓として生まれ、
エンジニアリングと設計の原則として認識されるようになりました。
現在では、ソフトウェア開発や教育の分野などさまざまな分野で活用
されています。プレイン・イングリッシュやIRコミュニケーションの
分野も例外ではありません。

KISSは「Keep it Simple Stupid:愚かなほどシンプルにしなさい」
の頭文字をとったもので、1960年、ロッキード社*のチーフエンジニアの
ケリー・ジョンソンが口にしたのが始まりとされています。

ジョンソンはチームメンバーに対し、何を設計するにしても
「戦場の兵士」が修理できることが大切だと説きました。
戦闘機が使用される前線では、基本的なメカニック知識とシンプルな
工具しか使えません。

シンプルで簡単に理解できる製品でなければ、戦場ではあっという間
に使えなくなり、役立たなくなるのです。

IRコミュニケーションの分野でも同じことが言えます。
「製品」(ここでは決算報告書、メモ、プレスリリースなど)が、
シンプルで誰にでも簡単に理解できるものでなければ、
ビジネスの現場(意思決定、投資、作業指示、従業員トレーニングなど)
で使用されず、役立ちません。

KISSとプレイン・イングリッシュに対するよくある誤解を解くために、
最後のS(Stupid:愚か)に当たる部分について少し説明しましょう。
Stupidは実際にStupidを意味しているわけではありません。
実際に意味することをより明確に表現するために、
KISSを「Keep it Simple and Straightforward:シンプルで
わかりやすく」あるいは「Keep it Short and Simple:
短くシンプルに」と表現する場合もあります。

プレイン・イングリッシュは、読者を下に見たコミュニケーション
であると誤解されることが多くあります。しかし、プレインであることも
シンプルであることも、Stupidであることとはまったく関係ありません。
Stupidなのは、戦場で修理できない戦闘機や、誰にも読まれない
IR資料です。シンプルな設計はレベルが低いと誤解されてしまうことが
ありますが、実際は高度な技術の象徴なのです。

KISSの原則を使って戦闘機の製品設計を行うことと、
プレイン・イングリッシュを使った文書の作成は同じです。
プレイン・イングリッシュの原則に従って文を書き文書を構成する
ことが高度な技術であることを理解していないと、
プレイン・イングリッシュがレベルの低い読者に向けたものである
ように感じてしまうのです。

来月は、さらに深く掘り下げ、プレイン・イングリッシュを使った
コミュニケーションによる価値創造について説明します。


*現在の米国の航空機・宇宙船開発製造会社である
ロッキード・マーティン社